【独自】「“通関DX”加速で国際物流拡大に貢献」

【独自】「“通関DX”加速で国際物流拡大に貢献」

デジタルフォワーダーのShippio・佐藤CEO単独インタビュー(後編)

前編:「汎用性が高い国際物流プラットフォームを構築する」

貿易関連業務を包括的に効率化するクラウドベースのシステム「Shippio(シッピオ)」を展開しているShippioの佐藤孝徳代表取締役CEO(最高経営責任者)はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。

佐藤CEOは新たな成長戦略の一環として、貿易に不可欠な通関業務のDXを後押しするサービスを展開し、国際物流の生産性向上と取扱量拡大に貢献したいとの考えを強調。今年7月にM&Aした協和海運を軸に、取り組みを加速させる方針を示した。インタビューの主なやり取りを2回に分けて紹介する。


佐藤CEO(Shippio提供)

「新しい景色を見たい」、M&A先と意気投合

――御社は9月の資金調達発表と合わせて、通関会社を買収した件も開示していました。スタートアップがシリーズB(経営安定期)ラウンドでM&Aするケースは珍しく、その対象が通関会社となるとなおさらだと思いますが、どのような狙いがあったのでしょうか。
「これはシリーズBにおけるわれわれの非常に重要なサクセスファクターだと捉えています。われわれが今、デジタルフォワーダーとして事業を展開していると、お客様からShippioさん、ぜひ通関もやってよとよく言われます。これまでは免許がなくパートナーに委託してきました。今回、通関がわれわれのサービスメニューに加わることで、貿易関連業務を一気通貫で取り扱えるようになります。さらに、今後は通関業務をデジタル化していきたいと思います」

「輸出入時の通関の申告件数は2000年前半に2000万件規模だったものが、現在は9000万件台まで増えてきています。越境ECの増加などが背景にありますが、日本の中でも非常に伸びている領域なんです。EC化率はまだまだ欧米より低いですし、今後も旺盛な通関の需要が見込まれます。しかし、その一方で日本には通関会社が900社以上あると言われていますが、そのほとんどはITやデジタルの投資が十分に成されていません。通関業務の従事者数もほぼ増えておらず、申告書類の作成・確認業務などの負担は年々増しています。通関業務の現場で効率化できる余地は極めて大きく、当社でそうしたところをカバーできるプロダクトを作っていきたいなと思っています」

――今回M&Aした協和海運とはどういう縁で出会ったのでしょうか。
「当社ではずっと通関業務の対応強化を探っていました。自分たちが通関業の免許を取得してオペレーションを担うということも考えたのですが、それではやはり少なくとも2~3年は掛かってしまうことが見込まれました。通関の需要が伸びていく中でそれだけ時間を要してしまうのは非常にもったいない。そこでパートナーを探していたところ、今年の3月ごろにある仲介会社から協和海運さんをご紹介いただきました。創業が1960年で60年以上の歴史をお持ちの老舗です。危険物の取り扱いなどにも強みがあります」

「鈴木文雄代表取締役をはじめ経営陣の方々とお話をしましたが、業務を変革しなければならないという問題意識を強くお持ちでした。スタートアップに非常に関心を示していただき、今後世の中は新しい方向に行くんじゃないか、自分たちもそういう新しい景色を見てみたいと意気投合し、一緒にやりましょうということになりました。今回調達した資金の一部はM&A費用に充てています」

――通関の領域に関しては、今後どのように取り組まれますか。
「まずは当社が扱う通関の案件を協和海運さんに手掛けていただきます。当社としても時間をかけて通関業務をしっかりと勉強していきます。既に当社から通関士の資格を持つ人間を協和海運に送り、話し合いを進めています。協和海運さんからは非常に多くのことを学ばせていただいています。おそらく1年くらいかけて価値ある新たなプロダクトを生み出していくという感じになるでしょう」

――通関に関する新たなサービスを始める上では、既存のNACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)と連携させていくイメージでしょうか。
「もちろん、ユーザーインターフェースに配慮しながら、そうした基幹システムと連携していくことも考えていきたいと思っています」


輸出入の通関申告件数の伸び(上)と、Shippioの取り扱い数の推移(Shippio提供)

「物流を変えていく。」の思いを新オフィスで体現

――佐藤CEOはもともと、大手商社の三井物産に在籍されていました。これまでに誕生してきた数々の物流スタートアップの中でも貿易業務のDXというところに着眼したのはおそらくShippioが初めてだと思うのですが、この領域に関心を持ったのは三井物産にいた時だったのでしょうか。
「私自身、三井物産では原油のトレーディングなどを担当しており、物流を直接経験したわけではないんです。中国の北京に駐在していたころ、中国の若い人たちが次々と起業している実態に触れ、自分も新しいことにチャレンジしたいと思い立ちました。そこでビジネスのアイデアをいろいろ考えていた時に米国のスタートアップの事例を調べ、物流業界のスタートアップが相次いで大型の資金調達を果たしていることなどを知り、デジタルフォワーディングのアイデアにたどり着きました」

「前にも申し上げましたが、日本の物流スタートアップはラストワンマイルの領域が多く、輸出入の領域で活動するスタートアップはいなかった。マーケットの規模が大きい一方で、貿易関連業務はデジタル化が遅れ、今後は労働人口が減るため生産性を上げなければいけないという課題解決に取り組む人が少なかった。そこにチャンスを感じました。やるからには事業を大きくしたいと思いました」

――起業されたころはDXという言葉自体、まだ一般的ではなかったと思いますが、そうした環境で貿易関連業務をデジタル化しようというのはかなり困難だったのでは?
「やはり2016年にスタートしてからが一番厳しかったですね。フォワーディング事業を展開する上で必須となる、貨物利用運送事業者法に基づくフォワーダーの免許を取得すること自体、事業の実績がないスタートアップにとっては本当に大変でした。逆に言えば、今は新型コロナウイルス禍が始まってリモートワークが広まり、DXの必要性が当たり前のように語られていますから、われわれの取り組みの意義を理解していただきやすくなってきました」

――起業した6年前には、今のような貿易関連業務のDXの姿は見えていた?
「見えていましたね。商社に在籍していてよかったと思う点の1つは、事業を作り上げるのに10年、15年といった時間が必要だという感覚を身に付けられたことですね。2、3年で事業が出来上がるというような感覚は全くありませんでした。少しずつでも業界を変えていけるような仕事がしたかったですから。Shippioについても、デジタルフォワーディングが受け入れられるのには6年くらいの時間軸がいるなと起業した当初から思っていましたから、そういう意味ではほぼ想定通りに進んでいると言えますね」

――今後の方向性は?
「やはり、国際貿易のDXを進めることで課題を解決し、誰でも日本で作った物を簡単に海外へ輸出したり、海外の物を輸入したりできる環境を実現したいですね。そうすることで内需に頼らない強い経済を作り上げていきたい」

――このインタビュー取材を受けていただいている東京・浜松町の新しいオフィスには今年8月に移転されましたが、エントランスに貨物船のようなオブジェが置かれるなど、非常にユニークなデザインですね。
「われわれの『物流を変えていく。』という思いを、新しいオフィス全体で表現したいと思ったんです。普通、ベンチャーやスタートアップは恵比寿や渋谷、六本木といった都心部をオフィスの場所に選択されることが多いと思いますが、当社は目の前に東京湾が広がる浜松町のビルを選びました。もともと産業の集積地と言いますか、物流の本丸のような場所に行きたいとは思っていたのですが、このオフィスからはコンテナ船が停泊する東京湾の港湾や飛行機が盛んに離着陸する空港、多くのトラックなどが行き交う高速道路、新幹線や鉄道が見えます。まさに動脈と静脈が通う、物流を身近に感じられる場所です。浜松町にいい物件が出たと聞いて内見に訪れたのですが、これはもう、ここに決めるしかないでしょう,と思いました(笑)。当社の企業文化は性別や人種、居住地域の多様性など、多様な価値観を認め合うことを重視しています。そうした考えを体現した新しいオフィスを活用し、よりフレキシブルで強い組織を目指していきます」

浜松町の新オフィス

貨物船風のオブジェが出迎え


随所に船関連のデザイン


窓から港などを望める


多様な背景を持つ従業員それぞれが「1人1人の描く海」をテーマに作成した作品を展示。多様性重視の姿勢をアピールしている

(藤原秀行)

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