ドローンの「目視外飛行」、地元住民らへの事前周知が極めて重要

ドローンの「目視外飛行」、地元住民らへの事前周知が極めて重要

日本郵便担当が国内初の物流実験踏まえアドバイス

日本郵便の上田貴之オペレーション改革部専門役は4月18日、千葉市の幕張メッセで開かれたドローン(小型無人機)の専門展示会「第5回国際ドローン展」で講演し、同社が国内で初めて行った、操縦者から見えない遠距離を補助者なしで飛ぶ「目視外飛行」による郵便局間のドローン物流実験について報告した。

実験開始までの準備の段階で、安全性に関して地元住民や関係機関の理解を得るのに相当の労力を要したことなどを紹介。その経験を踏まえ、今後ドローンを物流などに応用していく上では、飛行ルートがある地域の人たちへの事前周知が極めて重要とアドバイスした。


国内初のドローン実験の経緯などを説明する上田氏

「立入管理区画」で立て看板設置し注意喚起

上田氏は日本郵便がドローン活用に挑む背景として、人口減少が続く中、拠点数やサービス水準を維持するには現在の約6割の労働力で提供していかなければならなくなると予想。「一層の省人化や業務効率化が必要」との見解を表明した。

その上で、福島県内の2つの郵便局間約9キロメールで昨年11月から今年3月までの間、書類やパンフレットなどを片道約15分かけて定期的にドローンで運んだ実証実験の模様を動画で公開。併せて、実験を無事に進めるための事前準備の概要にも言及した。

まず飛行ルートは2郵便局間を最短距離で結ぶのではなく、変電所と高圧電線やJR常磐線の線路を回避できるよう調整。線路を上空でまたぐ箇所はトンネルが通っている場所を選び、万が一機体がルートをそれて落下しても大事故にならないよう、飛行時刻は念のため電車が当該地域を通過した後の時間帯に設定するなど配慮した。

また、実験前に地元の13区長へ飛行ルートなどを説明したほか、ドローンが通過するエリアの中で、機体メーカーが計算した落下の可能性がある範囲を「立入管理区画」に設定し、住民向けに実験内容を周知する文書を約1000カ所で配布するとともに、ドローン立て看板を約50カ所に配置して注意喚起。さらに有人機を飛ばす可能性がある同県内の警察や消防、医療機関にも情報提供するなど、細心の注意を払ったことを明らかにした。

上田氏は「立入管理区画をポイントとして(前述の課題を)どうクリアするかで事前準備(の成否)が決まるといっても過言ではない。もし目視外飛行をやろうとお考えになっている方がいらっしゃったら、その点をよく検討いただきたい。住民への配慮、安全・安心が非常に重要になってくる」と聴衆に呼び掛けた。

先進技術利用「あくまで人間の補完」と強調

また、ドローンに搭載のカメラが撮影した画像を地上へ送るために使った5・7ギガヘルツの周波数帯は通信距離が短く、福島の現地ではルートの途中で山があってつながりにくくなるため特別にバルーンを浮かべ、電波を中継するアンテナとして使った点にも言及。今後は携帯電話の高速通信網(LTE)が幅広く使えるようになることに期待を示した。

実験の成果を踏まえ、今後の普及に向けた課題として、
①ドローンの物流などへの利用を地域住民らが容認できる「社会的受容性」を向上させる必要がある
②住民らへのプライバシーや騒音などの影響が懸念される
③ペイロード(積載重量)や航続距離を改善する必要がある
④飛行ルートごとにそれぞれ飛行申請するのではなく、特定のエリア内でまとめて飛行申請ができるようにする
――といった事柄を列挙。状況が改善するよう、関係者の取り組みが進むことに期待をのぞかせた。

講演後の質疑応答で、ドローンに加えて配送ロボットや自動運転の実用化にも取り組んでいることを聞かれたのに対し、上田氏は「今人間が行っている業務をドローンなどに置き換えるということは全く考えていない。あくまで配達効率化に使える1つのツールと考えており、人間の補完にしていきたい」との姿勢を繰り返し訴えた。

今後のドローンの扱いに関しては、将来の構想として人里離れたエリアの住戸へ郵便物を配送するのに使えるとのイメージを示した。書留郵便などについては「まだドローンは(配送を)当面担えないが、今後認証技術が向上すれば省人化に取り組みたい」と語った。


講演に耳を傾ける聴衆

(藤原秀行)

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