JETRO・経産省とともに現地政府へ政策提言を実施
物流プラットフォームを運営するオープンロジ(東京・池袋)は5月15日、昨年4月から約1年間にわたってインドネシアで行ったEC事業者と物流事業者を結ぶ実証実験を無事故で終えたと発表した。併せて同国の市場成長性や課題なども提起。今回の実験で得られた知見を基に現地での事業展開を検討していく方針だ。
今実験は日本貿易振興機構(JETRO)の「日ASEAN新産業創出実証事業」として採択・実施。EC物流を取り巻く市場環境の調査(現地ECセラー約40店舗へのインタビュー調査を実施)、配送事業者および大手ECサイトとのシステム連携(3つの現地サービスと連携)、同社システムを活用した物流実験(3カ所の現地倉庫と提携して約400件を出荷)の3項目に沿って進められた。実証実験の調査・結果は次の通り。
物流を取り巻く市場環境
①配送方法はバイク便が中心で納期や梱包などサービス品質が低い
②主要な配送会社が6~7社と多く、住所システムが複雑で出荷手続きの負担が大きい
③労働力確保が容易なためEC事業者の大半は自前で物流を行う
④盗難の心配やサービス自体を知らないなどの理由から、物流アウトソーシングの浸透度は極めて低く啓蒙が必要
⑤在庫管理の意識が根付いておらず、EC事業者自身が在庫数を正確に把握せず欠品多発
⑥実際に現地サイトを利用した購入実験では17件中3件が注文後に欠品キャンセル
GOJEKやGrabといったバイクサービスが都市内配送の主力(オープンロジニュースリリースより)
事業者宅の一角に積まれた、管理されていない在庫(オープンロジニュースリリースより)
配送事業者および大手ECサイトとのシステム連携
①複数の配送会社を手配する一括管理サービス「Shipper」および現地大手ECモールの「Shopee」「tokopedia」と連携してシステムは問題なく稼働。また現地EC受注・運営管理システム「JUBELIO」を介して他大手ECサイトとも連携可能なことを確認
② 決済は与信面からBtoC型のECサイトであってもエスクロー方式が一般的
現地にて実証した物流アウトソーシングサービスの概要図(オープンロジニュースリリースより)
オープンロジのシステムを活用した物流実験
① ジャカルタ市内2カ所と市外1カ所の提携倉庫から404件、5347個の商品出荷を実施。システムの稼働に問題はなく全ての出庫で無事故を達成
② システムに沿った作業とトレーニングで現地スタッフもミスなく日本水準の作業が可能
③ 実験に協力した荷主からはシステムの使いやすさや梱包品質に対して高い評価を獲得。在庫管理・出荷の労力、保管スペースの削減でも現地中小荷主の課題解決につながった
④島しょ国であるインドネシアは配送距離による価格差が大きく、物流アウトソーシングによる在庫分散は消費地近くで在庫管理と発送が行えるため日本以上にメリットが大きい
インドネシア政府に対する政策提言の内容
①大手企業と政府機関に対するAPIのオープン化(中小事業者の競争力向上と新サービス支援)
②交通渋滞の解消(交通政策の検討に加え幹線輸送や在庫分散の啓蒙についても言及)
③バーコードなど統一規格の作成(現状では規格がなく管理や情報共有の基盤として整備が必要)
④国全体へのブロードバンドおよびIT機器へのアクセス機会提供
政策提言を行なった報告会の写真(オープンロジニュースリリースより)
インドネシアのEC市場と課題
①インドネシアは世界4位の人口を抱えることに加えて若年層の厚み、購買力の向上、順 調な伸びを見せるネット普及率といった諸条件がそろい、東南アジア主要国の中で最も大 きなEC市場の成長が見込まれる
②今後は個人・中小規模のEC事業者が増加すると予想され、従来の企業間物流と異なった現地ユーザーが利用しやすい新しい物流ソリューションが必要
③ECビジネスの成長における課題は物流と代金決済といれており、現地調査会社JACPATの調査では荷物の遅延や品質の劣化を問題視する消費者が7割を超え、費用についても6割が課題と感じている
④諸島で国土が広く物流インフラが不十分なことから配送の遅延や送料の高額化も発生しており、市場の発展にはこれらの課題を解決すべく効率的なサプライチェーンの構築が重要と考えられる
関連グラフ(オープンロジニュースリリースより)
オープンロジはJETRO、経済産業省とともに現地政府へ政策提言を実施。現地の物流アウトソーシング市場は未成熟な一方、ECの拡大や地理的要因から成長性は高いと分析する。また今実験を通じて日本で培ったサービスの有用性を証明できたとした上で、物流業務の標準化・効率化によって現地中小ECおよび物流事業者の課題解決に貢献できるとの見解を示している。
(鳥羽俊一)