【独自取材・物流施設デベロッパーのキーパーソンに聞く】大和ハウス工業・浦川取締役常務執行役員(後編)

【独自取材・物流施設デベロッパーのキーパーソンに聞く】大和ハウス工業・浦川取締役常務執行役員(後編)

「地域再生の核になる物流施設を造っていきたい」

大和ハウス工業の浦川竜哉取締役常務執行役員(建築事業本部長)はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。

浦川氏は、少子高齢化などで厳しい状況にある地域の再生に物流施設を活用していく構想を説明。具体策として、全国の公設卸売市場の再整備に物流施設開発を組み入れてスペースの有効活用を図ることなどを列挙した。

また、地元自治体と災害時の連携協定を締結し、住民の避難場所として開放することなどを通じて地域に貢献、物流施設の社会的地位や存在価値を高めていくと強調。「近くにあってよかった、助かったと言っていただけるような物流施設を造っていきたい」とアピールした。発言内容を3回に分けて紹介する。


インタビューに応じる浦川氏(中島祐撮影)

働く人が利用できる住宅とセットの開発も

――既に触れてきた通り、御社は都市部に加えて地方でも物流施設を積極的に開発しているのが大きな特徴です。地方経済は新型コロナウイルスの感染拡大も影響して厳しい状況にあります。物流施設には雇用創出などの面で地元の期待も大きそうですね。
「日本の人口がどんどん減って、地方が疲弊しています。そうした状況の中で民間の活力を導入させていただき、地方創生につなげていきたい。例えば工業団地を造成して地元自治体の内外から企業を誘致するのに加え、われわれは住宅や商業施設も手掛けていますから、そうしたものをうまく組み合わせて働く人を呼び込める環境を整備するプロジェクトを進めることも可能です。言わば物流を中心とした街づくりですね」

――具体的にはどういったことを進めていますか。
「取り組みの1つが、当社が長年手掛けてきた住宅団地の再生です。当社は1960年代から『ネオポリス』と呼ぶ郊外型の戸建て住宅団地を全国で60カ所以上、延べ6万区画以上整備してきました。自分の家を持ちたいという世帯のご要望に応えてきました。しかし、その多くが開発してから40年以上経過しており、少子高齢化が進んで空き家が目立ち、商店街も閉店が増え、“買い物難民”が発生してしまっています。われわれは団地を整備した責任がありますから、そうした街を再生する『リブネスタウンプロジェクト』を推進しています」

「例えば、横浜市の『上郷ネオポリス』では住民主体で管理運営するコンビニエンスストア併設型のコミュニティ拠点を開設し、住民の方々が集まって食事したり、イベントを開いたりできるようにしました。兵庫県三木市の『緑が丘ネオポリス』では新規に雇用を生み出すため、胡蝶蘭の栽培施設を団地の中に作りました。プロジェクトの一環として、団地の中に宅配の拠点を整備するなど、物流を使った街の再生にも今取り組み始めています」

「他にも、当社が大型の物流施設を計4棟開発している千葉県流山市では、企業内保育施設を手掛けているママスクエアと連携して建物内に従業員専用の保育施設を整備するほか、希望される方には賃貸住宅もあっせんするなど、子育て中の方々が安心して働ける環境を整備しようと努めています。併せて、流山市とは防災協定を締結しました。災害が起きた際にはテナント企業のご協力も得ながら、地元の方々が避難できる場として物流施設を開放します。防災グッズも大量に備蓄し、数日間は施設内で安全に過ごせるようにしています」

「かつて物流施設はトラックが数多く出入りして排気ガスが大量にまき散らされ、事故に遭う危険もあるといったネガティブなイメージを持たれ、残念ながら地域の方々から厄介者扱いされていた時代もありました。地方では今、地域住民の方々に、近くにあってよかった、助かったと言っていただけるような物流施設、雇用や税収を生み人々の生命と財産を守ることができるような物流施設、そして街の再生の核になるような物流施設をどんどん手掛けていこうとしています」

――今後は最初からもう働く人が利用できる住宅と物流施設をセットで開発していくこともありそうですね。
「これからはそういったケースも増えてくると思いますね。物流の社会的地位や存在価値を高め、地域の方々にあったら邪魔な存在ではなく、あったらいいなと思っていただける物流施設にするためには、それぐらいまで徹底して取り組んでいかないといけないでしょう。そうすれば地元自治体の皆さんも物流施設開発へ積極的に対応してくださるようになります」


流山市で10月末竣工した「DPL流山Ⅳ」内に設けられた従業員専用の保育施設


屋上には保育施設から直接出入りできる遊び場を設置した

産業構造や社会の変化を支える

――物流施設を活用した街の再生には他の切り口もありますか。
「全国の公設市場の再整備です。日本には公設の卸売市場が全国で1200カ所くらい存在していると言われているんですが、その多くが老朽化し、取扱量も減少して建屋内に空きスペースが目立つようになっています。そこで業務やスペース利用を効率化するためにサイズをコンパクトにして、残ったスペースを物流施設やマルシェなどに有効活用することを考えています。今年3月には富山市の公設地方卸売市場の再整備事業で当社が事業代表企業を務めるグループが優先交渉権を獲得することができました。民間の活力を導入して施設を建て替えながら最新鋭の機能に刷新していくことで市場の民営化、活性化を図る。そういった意味では物流が産業構造の転換をお手伝いしている形だと言えると思います」

「これまでにも当社は日本のそれぞれの時代における産業構造や社会の変化を支えてきました。一例を挙げれば、大阪府茨木市のパナソニックのブラウン管テレビ工場の跡地を物流施設に変えました。さまざまな生産拠点がアジア各国に移る中、物流施設という注目されている産業への転換を図ることで地元の雇用や税収を維持し、住民の方々の不安を解消することができました」

「この30年で日本の水産漁獲量は半減し、食料自給率もカロリーベースで4割を切り、さらに低下する恐れがある。そうした中でノルウェーの水産会社プロキシマーシーフードが静岡県小山町にある当社開発の工業団地で、日本最大級となるアトランティックサーモンの閉鎖型陸上養殖施設の建設を決めました。施設は当社が設計・施工を担当し、2023年度の稼働開始を予定しています。配送に関しては当社グループの若松梱包運輸倉庫が手掛け、急速冷蔵したり生のまま鮮度を保ったりして全国に出荷することを想定しています。当社グループの物流などのリソースを活用し、食料自給率向上への貢献を目指します」

「他にも、近年eコマースの利用増加などを受けて需要が急速に伸びているデータセンターの開発にも、物流施設のノウハウを生かしながら千葉県印西市で着手しています。データセンターに設置するサーバーは非常に重いため床の耐荷重を確保したり、BCP(事業継続計画)対策として免震構造を採用したりと、物流施設と親和性が非常に高いんです。こうした事例を見ると、物流施設を開発するのに物流だけをクローズアップしていないというのがわれわれの投資の特色と言えるかもしれません」

――非常にユニークな視点ですね。
「まさに社会的な課題の解決を物流が後押ししていくイメージですね。これからも日本だけ、物流だけを取り上げるのではなく、日本の物流も世界の物流も、そして日本のものづくりも世界のものづくりも見ていきます」

(藤原秀行)

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