料金交渉の考え方:日東物流・菅原拓也代表取締役
トラックドライバー不足などから空前の運び手有利の市場のはずなのに、運賃はまだまだ経営者もドライバーも懐が潤う…というところまでは程遠いのが実情。そんな苦境を打開するためのヒントが満載です!
菅原代表取締役(日東物流提供)
第1回 ダース・ベイダーとルークのごとく、父と意見が分かれる
第2回 ラスボスの父は意図的に表舞台から退いた
第3回 ウサギ程度のストレス耐性しかない僕は、ウソをやめることにした
第4回 長時間労働“アタリマエ”という「意識」が、みんなのアタマを侵食していた
相手より多くの情報を持つ者が有利になる
この連載を始めて早5カ月、桜も散り、すっかり初夏の香りが辺りを包み込んでいます。
いやぁ、月日が経つのは早いものですね~。
なーんて前置きとはカンケーなく、今回は「料金交渉の考え方」についてお話します。
皆さんは、ちゃんとした根拠を持って、料金設定をしていますか?
“この辺りの相場だから―――”
“ ずっと、この料金だったから―――”
“ 荷主さんに言われたから―――”
こんな、謎の商習慣や不文律、思い込みで思考を停止させていたら、損ばかりすることになるし、そんなことでは会社も、社員も守れません。交渉とは「情報戦」、相手より多くの情報を持つ者が有利になります。有利とは言わずとも、対等に荷主と料金交渉したいなら、そんなものに囚われるのではなく、センターフィーや保管料、入出庫料金、配送料金、人件費、燃料サーチャージなど、損益の採算ラインを見極めるための“情報”をしっかり把握し、料金設定の基になる根拠を持つべきです。
また、それだけでなく、その情報を基に算出された料金で行う作業を具体的に設定し、それを「前提条件」として、荷主と相互共有することが重要です。
例えば、ある配送について料金提示する際に、次のような前提条件を附帯させるとします。
25,000円(3t ドライバン)
【前提条件】
・ 出庫7:20
・ 配送距離は出庫~帰庫で120km
・ 接車8:00、出発8:45 → 納品完了14:00
・ 積込時検品あり/納品時検品なし
・ バラ積バラ降ろし
・ 月曜日~金曜日の平日配送(土日運休)※祝日配送あり
・ 帰庫15:30
こういった具体的な前提条件を荷主と握り合っておけば、万が一想定と異なる運行となった場合でも交渉が格段にしやすくなるし、実際に仕事をしてみて損益バランスが崩れた際に、見直しをする指標にもなってくれます。というのも、儲からない場合は、この前提条件が崩れていることが多いからです。当然、儲からないと困っちゃうので、とるべきアクションは
①料金を上げてもらう
②コストを削減する
――の2択しかありません。
もし、①を選択する場合、
「えっとー、なんかやってみたらー、全然儲からないんスよー。料金あげてもらって良いっスかー。え、いくらですかって?とりま3,000円アップで、どーっスか、てへぺろ★」
なんて、何の“情報”も持たず、ノリと気合とカラ元気だけでリングに上がっても、「値上げの根拠はなんですか?」のカウンター1発で、ノックアウトです。
「見積もり段階で前提としていた配送距離よりも15km長くなっていることに加えて、荷待ちがあるために想定拘束時間よりも1時間長くなっています。以上の事から、料金を3,000円上げて頂くか、前提条件通りの運行にして頂くかをお願いしたいのですが、キラーン☆」
と、確かな“情報”を基に理路整然と交渉すれば、ビジネスである以上、どんな相手でもキチンと話を聞き、検討してくれるハズです。それに、対応してくれる担当者さんが、上位役職者に状況を説明しやすくなるなど、メリットも盛りだくさんです。
一方、もし②を選択する場合、人件費を減らすことが、もっとも手っ取り早いわけですが、ドライバーさん達にサービス残業を強いて長時間働いてもらうのと同じことなので、絶対にやるべきではありませんし、売上を上げずに身銭を切るなんて、経営者としての仕事をしていないのと同じです。利益体質にしてこそ、経営問題に立ち向かうための原資を確保し、永続的な企業活動が見込めるのです。
特に物流業界は、労働力不足や高齢化など中長期的な問題から、「2024年問題」といった喫緊のものまで課題が山積で、そこには企業レベルでも様々な投資が必要です。そのためには、悪慣習に囚われて思考停止している場合ではなく、100円でも利益を上げるための“情報”を収集し、理論武装して料金交渉に臨むべきなのです。
100円でも値上げしてもらえれば、22日間の稼働で2,200円、1年間で2万6,400円の利益になります。もし利益率が1%なら、それは264万円の売上アップに匹敵します。
たった100円、されど100円。
今日より明日を、明日より明後日を、少しずつ良くするために、頭でも汗をかいて、少しずつ努力を続けてみませんか?(第6回に続く)
日東物流twitter:@nittobutsuryu
大学卒業後、大手運送会社などを経て2008年、日東物流に入社。17年9月、創業者の父親の跡を継いで代表取締役に就任。事業強化のみならずコンプライアンスの徹底や健康経営の実践に注力、2021年には千葉県の物流企業として初めて、経済産業省の認定する「健康経営優良法人(ブライト500)」に選出された。事業においても経常利益率、内部留保をともに300%近く増加させるなど経営改革を進め、物流業界で注目を集めている。
日東物流が「サステナブル・ビジネスモデル」の事例として取り上げられた新刊が発売されました。ロジビズ・オンラインで連載されていたタナベ経営のベテランコンサルタント・土井大輔氏の著作です。弊社の名前も帯文に登場しています!(笑)
「物流業 4つのサステナブル・ビジネスモデル」(ダイヤモンド社・税込み1,760円)