【独自取材】プロに見せたい物流拠点(第10回)DesignFuture Japan・市川HUB

【独自取材】プロに見せたい物流拠点(第10回)DesignFuture Japan・市川HUB

デザイナーに建材サンプル無償発送、米ローカス製AMRが迅速出荷支える

課題山積の物流業界でピンチをチャンスに変えようと、省力化や生産性向上などに果敢に取り組む物流施設を紹介するロジビズ・オンライン独自リポート。第10回は日本の建築業界向けに画期的なサービスを根付かせようとしているDesignFuture Japan(デザインフューチャージャパン、DFJ)が千葉県市川市に構えている物流拠点「市川HUB(ハブ)」を取り上げる。

今年1月、建材のサンプルをデザイナーらがウェブでまとめて検索、欲しいものをまとめて注文できるマーケットプレイスの運営を試験的に開始した。深夜零時までの注文が最短翌日午前中に届くのが大きな特色だ。日本で初めて米ベンチャー製のAMR25台を物流センターに導入、多種多様な製品を在庫して迅速に出荷する物流を支えようと奮闘している。


「市川HUB」が入る千葉県市川市の「ESR市川ディストリビューションセンター(DC)」

第2の市場として日本に進出

Design Future Japanは世界最大の建材サンプルマーケットプレイス「Material Bank(マテリアルバンク)」を日本で展開するため、2022年1月に発足した日本法人だ。同社が今年1月、試験的に運用を始めた「Material Bank Japan」は建築家やインテリア、店舗ディスプレイのデザイナーらが多様なメーカーの建材サンプルをオンライン注文することが可能。

利用者はメーカー各社から個々にサンプルの情報を集め、必要に応じて取り寄せるという煩雑な手続きを省略できる上、サンプル代金も含めて全て無料で利用できるのも大きな魅力だ。DFJがメーカーから手数料を受け取り、マテリアルバンクを運営している。

マテリアルバンクは19年に米国でサービスを開始した。運営会社の米MATERIAL TECHNOLOGIES CORPORATION(マテリアルテクノロジーズコーポレーション)によれば、米国の建築関係のデザイナーは平均して業務時間の4割近くを建材探しと取り寄せに割いていることが判明し、この部分の業務プロセスを最適化するニーズが見込めると判断。マーケットプレイスの構築に踏みきった。

マテリアルバンクを利用するデザイナーの数は、北米の設計事務所上位200社の9割超に相当する10万人に到達。製品を取り使っているメーカーは450社を超え、1日当たりの出荷数は約8万個に上るなど、建築業界にとって不可欠の存在となった。米国での成功を受け、次の進出先として建材が多岐にわたり、建築市場が発達している日本を初の進出先に選んだ。今のところ日本でも米国のビジネスモデルを基本的に受け継いでいる。

メーカーから送られてくる建材サンプルはマテリアルバンクのWMS(倉庫管理システム)に登録し、千葉県市川市でESRが開発した大型物流施設「ESR市川ディストリビューションセンター(DC)」内に構えている拠点「市川HUB」内の約6000㎡に上る物流センターに入荷する。1日当たりの注文回数には上限を設けておらず、何回でも注文できる。深夜零時までに注文を受け付けた建材をまとめて出荷し、最短で翌朝にデザイナーへ届ける。「原則として注文の翌日に配送」というリードタイムも米国と共通だ。


センター内では膨大な種類の建材サンプルが整然と収められている

DFJの右澤マーシーCOO(最高執行責任者)は「デザイナーの方々にとっては建材を探す手間を大きく省くことが可能で、欲しい時に欲しい建材がすぐ手に入る。メーカーの方々としても営業活動を効率化できる上、デザイナーさんのニーズを細かく把握できるメリットがある。マーケットプレイスで双方をマッチングすることでお互いがハッピーになれる」と意義を強調する。


右澤COO

建材は形や大きさ、性質がそれぞれ異なる上、当然ながらデザイナーによって好みも全く変わり、建築物ごとに求められる建材も相当に違ってくる。マテリアルバンクはユーザーのニーズに対応するため膨大な数と種類の建材をストックしなければならず、スペースを確保して保管効率を上げるのと並行して、ピッキングなどの精度を高めることも重要となる。

さらに、マテリアルバンクはデザイナーが使わなかったサンプルの返品を受け付けている。廃棄を減らし環境負荷を低減するため、検品して汚れたり破損したりしていなければ、再びサンプルとして出荷している。

そのため、返品への対応も考えなければならず、在庫や入出荷管理の難易度は高い。DFJはその解として、日本で初めて米ロボットメーカーのLocus Robotics(ローカスロボティクス)のAMR(自律式移動ロボット)「LocusBots(ローカスボッツ)」を25台採用した。ピッキングする製品が収められた棚まで自律移動して、作業スタッフをサポートする協働型ロボットだ。


ローカス製のAMR


庫内のQRコードなどで現在地を把握


今年1月、市川の物流センターで日本進出を発表したローカスのリック・フォークCEO(最高経営責任者)とDFJの中沢剛CEO

ローカスは米国で15年に創業。世界に100社以上の顧客を抱え、250以上の物流拠点で計1万台以上が稼働している。ユーザーにはEC事業者などのほか、DHLサプライチェーンや仏ジオディスといった海外の大手物流企業も名を連ねているる。現在、17カ国で事業を展開し、アジア・太平洋地域ではシンガポール、オーストラリアに次いで日本が3カ国目の進出となった。

米国のマテリアルバンクも物流センターでローカスのAMRを使っており、その能力の高さを評価し日本でも採用を決めた。従量課金制を採用していることも導入のハードルを下げた。

市川のセンターではマテリアルバンクのWMSからローカスのロボット管理システムに製品の情報を送り、AMRがピッキングすべき建材をディスプレイに表示しながら、当該の棚に自律移動する。ピッキングエリアでは、スタッフがそれぞれ受け持ちのエリアで待機し、AMRの指示に従って建材を容器に収めればAMRが次の場所へと移動。作業スタッフはセンター内を長い距離にわたって歩き回らなくて済む上、新任の作業スタッフも短期間で戦力となる。


AMRを使ったピッキングのデモ

参加メーカーは当初の2倍超に

DFJは当初、1月から3~4カ月の実証期間を経て正式にサービスインすることを想定していた。しかし、先行モニターとして利用していたデザイナーの利用が広がり、マテリアルバンクジャパンで取り扱う建材のラインアップ拡充を求める声が挙がった。さらに、参加しているメーカー数も当初予定していた60社から、直近では2倍超の140社まで伸びている。

そこでデザイナーとメーカー双方のニーズをよりきめ細かく把握して、さらに使い勝手の良いサービスにレベルを高めていくため、実証期間を延長した。正式なサービス開始は今年秋ごろになる予定。

関東エリアのデザイナーには注文翌日の午前配送を達成しており、関西エリアなど他の都市部でも翌日中の配送が可能となっている。今後、注文数量が増えてくると原則翌日配送を維持するために、さらなる業務の効率化が求められることになる。右澤COOは「ピッキング以外の作業工程も、どこまで自動化できるのかを見極めながら検討していきたい」と語る。

他にも、配送回数を抑制するため、同一のデザイナーから寄せられた複数の注文を極力一つの梱包でまとめて出荷するよう、梱包の完了を出荷の直前まで待ち、出荷作業をスピーディーに処理できるようにしている。

将来は日本のマテリアルバンクも米国と同様のサービス規模に育てていくことを目指している。「サンプル関係の業務効率化や廃棄量削減、物流の効率化など、マテリアルバンクを使うことでどれくらい目に見える効果として体感していただけるのか、数値化に目下取り組んでいる」と右澤COOは説明する。

建材サンプルは通常のECのようにシャンプーが売れたからハンドソープも一緒に売れるといったような、分かりやすい需要の傾向をつかみにくいという。特殊なECモデルと言えるが、そこで培ったノウハウは「建材以外にも応用できる可能性がある。洋服の生地など、いろんな業界が(活用の場として)あり得るのかもしれない」と右澤COOは期待をのぞかせている。

まずは建材のマーケットプレイスをきっちりと成功させることが最優先だが、その後に、新たなサービスへ応用できる未来が広がっているかもしれない。DFJの挑戦に対する物流関係者の期待がさらに集まりそうだ。

(藤原秀行)

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