2040年には内航船員数が半減の恐れ、自動運航船の着実な実用化を訴え

2040年には内航船員数が半減の恐れ、自動運航船の着実な実用化を訴え

三菱総研・武藤主任研究員が解説、モーダルシフト需要増にも対応可能と意義強調

三菱総合研究所は8月8日、官民で実用化に取り組んでいる自動運航船の開発動向に関するメディア向け説明会を開催した。

登壇したフロンティア・テクノロジー本部フロンティア戦略グループ特命リーダーの武藤正紀主任研究員は、自動運航船の意義として、船員の減少と人手不足をカバーしオペレーションコストも低減できる上、24時間運航やオンデマンド輸送が可能になるなど海運事業者らにとって収益機会の拡大にもつながると解説。ヒューマンエラーを減らして安全性の向上も期待できるほか、環境負荷低減の効果も見込めると強調した。

物流の「2024年問題」への対策として需要が今後さらに増えると見込まれる船舶へのモーダルシフトにも対応できるようになると指摘。自動運航船の実現には、船舶の運航管理支援などを一元的に担い、必要に応じてMaaS(Mobility as a Service)の形式で海運事業者らにサービス提供する事業会社を立ち上げるなど、「従来の海運事業からのパラダイムシフトが必要」と訴えた。


解説する武藤主任研究員

経済効果は1兆円と期待

武藤主任研究員は、三菱総研の推計結果として、悲観的なシナリオの場合、2040年には内航船員数が19年実績から最大で47.8%落ち込む可能性があると言及。自動運航船を導入することで、若手や経験層の人たちが陸上勤務を選択できるようになるなど、労務環境改善につながり離職原因を解決、「持続可能で選ばれる職業になる」と予想した。

日本財団が軸となり、三菱総研も加わっている無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」の進捗状況として、省人化と安全航行を実現するシステムの実証に成功したことなどを報告。2040年に国内船舶の半分を無人化するとの目標達成へオールジャパンで取り組んでいるとアピールした。現在はその前段の「ステージ2」として、25年までに無人運航船を実用化するとの目標達成に動いているという。

海外の動向として、国際海事機関(IMO)で自動運航船の国際ルール「MASS Code」の検討が進んでいるほか、自動運航技術については北欧や韓国を中心に開発が進み、実証に成功して一部は商業化の動きが加速していると分析。ただ、運河など比較的容易な環境での導入が中心になっているとの見解を示した。


「MEGURI2040」の無人運航実証試験の試供船「みかげ」(井本商運運航、内航コンテナ船。商船三井提供)

水上輸送に加えて海洋・沿岸観光、港湾活動、水産活動、造船・修理なども含めた広範囲の「海洋経済」は2010年から2倍の2.96兆ドル(約4100兆円)に伸びると試算。そうした世界的な潮流の中で、デジタル技術で海洋事業に新たな価値を生み出す「海洋DX」が重要との見方を表明。「自動運航船は日本の海洋産業(ブルーエコノミー)を支える基盤となり得る」と説いた。

その根拠として、内航海運の貨物輸送量(トンキロベース)が自動運航船導入で2040年は1.17倍まで増える可能性があると試算。離島の航路維持にも有効なほか、脱炭素に有効と期待されている洋上風力発電に関しても、事前調査や建設のための作業員や資材の輸送、運用中のメンテナンスなどにも自動運航船を使えると強調した。「経済効果は全体で約1兆円とみられる」と前向きな見方を表明した。

自動運航船の形態については、既存の船舶に機器を搭載するパターンと、自動運航機能を搭載した新造船のパターンの両方を組み合わせていくことを想定していると述べた。

社会実装に向けて、自動運航船の稼働最適化や運航管理、気象情報提供などを担う事業会社を設け、自動運航船の所有企業と海運・旅客船事業者の間に介在するスキームを構築すべきだと提案。中小の内航海運業者らが自動運航船を利用しやすくするよう配慮を求めた。不正アクセスによる乗っ取りや情報漏洩などを防ぐサイバーセキュリティにも注力するよう要望した。

武藤主任研究員は「(規制改革など)協調領域にはオールジャパンで取り組む」よう要請。国際ルールを形成していく中で日本から積極的に発言していくことも重要とPRした。

(藤原秀行)

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