「43年間の仕組みを大きく見直す必要」、幹線輸送維持も急務と訴え
ヤマトホールディングス(HD)は4月11日、東京・大田区の基幹拠点「羽田クロノゲート」内でグループ主要3社の新トップが参加し、物流・流通業界メディアとの懇談会を開催した。
この中でヤマトHDの長尾裕社長は、中核の宅配事業が人手不足やeコマースの荷物量増加といった環境変化に見舞われている現状を踏まえ「『宅配便』を始めて43年間取り組んできた仕組みやオペレーションを大きく見直さないといけない時期にある」との問題意識を表明。成長を担保するため、労働集約スタイルを前提とした旧来のビジネスモデルからの抜本的な改革への決意を表した。同時に、幹線輸送維持が急務との見解を示し、物流業界を挙げた対応が不可欠と訴えた。
併せて、法人向けに物流変革を提案するビジネスソリューション分野を拡大していきたいとの姿勢をあらためてのぞかせた。
今後の事業戦略について説明する長尾社長
料金適正化「行き過ぎると逆に物流業界の存在感薄まる」
長尾社長は2019年が創業100周年となることに触れ、「この先の未来に向けて当社がここまで保有してきた経営資源をどう再配置するか、そして引き続きお客さまの立場に立ち、当社グループがどういうサービスを提供するかという方向性を早く打ち出したい」と語った。
その上で「サービスを持続的に提供できるようにするには、長い目で見ればやはり労働集約型ではない産業に変えていく方向へ進まなければならないが、そう一朝一夕にはいかない。まずは仕分けなどの作業から大きくメスを入れるべきだと思う」と解説。同社の宅配全体の3割程度でまだ手書きの伝票を用いていることを例に挙げ、各業務の標準化やデジタル化を加速させていく必要性をアピールした。
さらに「時代に合わせたモデルチェンジのためのプロジェクトをいろいろと立ち上げており、お客さまの声を聞きながらどんどん情報発信していきたい」と述べた。
物流業界でトラック運賃などの値上げが進む動きについては「物流側の供給力が小さくなっていることに危機感を持たなければならない。(需要が供給を上回っているから値上げの方向に)プライシングしやすいという側面はある。(料金適正化は)さらに進めるべきだが、だからといって物流事業者が強い立場にあるとは思わない方がいい」と持論を展開。
適正化の動きが行き過ぎると「顧客側が自衛姿勢を強め、物流事業者が成すべきことがどんどんなくなっていく可能性もある。適正対価は頂くべきだが、トータルコストをどう下げていくかが重要だ。輸送というプロセスをいかに削減していくかを同時に提案できなければ物流業界の存在価値は薄まっていく」と予想し、料金適正化と業務効率化の提案を同時並行で進めるべきだとの立場を鮮明にした。
働き方改革の一環として1万人の採用を打ち出している、配達に特化したドライバー職「アンカーキャスト」については、今年3月末で5000人を超えたと説明。「従来のセールスドライバーは集配までフルに手掛けることからどうしても労働時間が長いとのイメージがあった。自身のライフスタイルに合わせた形で働ける点に反応していただいた」と歓迎するとともに、輸送力が前年実績から数%アップできているとの見方を示した。
業界内で“共創”呼び掛ける
一方、長尾社長は宅配など物流事業を支える幹線輸送でトラックドライバー不足や高齢化が深刻となっている状況への見解を聞かれたのに対し「非常に大きな危機感を持っている。(問題解決へ)残された時間はかなり短いのではないかとの見方は私もイコール(同感)だ。非常に先細りが早く、この先はかなり早い時期に車の確保が難しくなってくる」と強い懸念を表明。
同社も幹線輸送の9割は協力会社が担っていることに触れ「もちろん個社としてどういう対策を打つかという問題はあるが、同時に業界の中で組めるところは組む、“共創”していくということを呼び掛けていかなければいけない」と持論を展開した。
先日、ヤマト運輸とライバルの日本通運、西濃運輸、日本郵便の計4社が関東~関西間の幹線輸送にトレーラー2台をつなげてより多くの荷物を運べるようにしたダブル連結トラック「スーパーフルトレーラSF25」を投入、共同輸送を始めたことにあらためて言及。「4社の取り組みが第一歩だ」と語り、業界内で連携が広がっていくことに強い期待をにじませた。
米中貿易摩擦などの影響で国内外ともに経済成長の減速感が出ていることに関しては「総合的に申し上げると先行きは楽観視できない。消費税が増税されれば消費は相当冷え込むだろうとみている」と展望。消費と企業の製造・調達の両面から景気鈍化の影響を受ける可能性を指摘した。
同時に、法人向けソリューションに注力していく方針とも関連し「宅急便は適正な料金を頂戴できるようになってきているので、そことは違う部分で(物流業務効率化・適正化を)ご提案し、お客さまのトータルでの物流コストを上げない、もしくは上げ幅を緩やかにすることにグループを挙げて対応していきたい。そうしなければなかなか当社のサービスを使っていただけなくなる」と言明。ソリューション内容の拡充で景気減速を克服していくことへの強い決意を表明した。
海外展開はアライアンス戦略が基本に
日本郵便が郵便利用の減少や現場の労働力不足を理由として、土曜日の普通郵便配達取り止めを総務省などに求めていることに対しては「国のリソースが相当詰め込まれたユニバーサル(全国一律)サービスである郵便が、なぜあれだけサービスダウンしようとしても(関係者が反対や懸念の)声を上げないのか全く理解できない」と同社の対応に強い不快感をあらわにした。
このほか、事業の海外展開の方向性については「日本企業の海外引っ越しや周辺業務をやったりして、ある程度実績は挙げてきた。それに加えてアジアで宅急便を展開しているが自前で始めた部分はやはり簡単ではないのが実情」と胸中を吐露。「これからは(自社による取り組みの)オーガニックよりはアライアンス戦略が基本になるだろう」と語り、進出先の有力企業とタッグを組んで事業基盤を拡大していく路線に軸足を移すことを示唆した。
懇談会に臨んだ(左から)ヤマト運輸・栗栖利蔵社長、ヤマトHD・長尾裕社長、ヤマトロジスティクス・小菅泰治社長
(藤原秀行)