【解説】ドローン「レベル3.5」飛行実現が物流の窮状を救う

【解説】ドローン「レベル3.5」飛行実現が物流の窮状を救う

地方で買い物難民救済へ大きく前進期待

ドローン物流の普及に弾みが付きそうな取り組みが本格的にスタートする。国土交通省は、無人地帯上空をドローンが目視外飛行する「レベル3」の安全規制を緩和し、一定の条件を満たせば道路や線路の上を一時停止せず容易に飛行できる「レベル3.5」の区分を新設する方針を決定した。

レベル3は人口が少ない中山間地や離島で、ドローンによる物流などに適用することが想定されているが、これまではドローンの飛行ルート下に人間が立ち入らないよう監視する補助者を置くことなどを定めており、コストや手間が増すため、地方エリアでのドローン物流普及の足かせになっていた。

 
 

事業者や地方自治体の要望を踏まえ、国交省が安全と利用促進のバランスを取り、規制緩和に踏み切ることで、ドローンを活用した地方の物流ネットワーク維持につながるという光明が見えてきた。「レベル3.5」は日本のドローン物流普及のブレークスルーになりそうな予感を秘めている。人口減少が深刻な地方の物流の窮状を救い、“買い物難民”救済へ大きく前進することも期待される。

道路や線路の上空通過が容易に

航空法はドローンの飛行に関し、難度などを踏まえて4段階に区分し、それぞれ飛行に必要な規制を細かく定めている。「レベル3」については、飛行ルート下に人が立ち入らないよう、監視するための補助者を配置したり、周辺に飛行を周知する看板を立てたり、道路上空を横断する前には一時停止したりする「立入管理措置」を講じるよう規定してきた。

しかし、ドローン物流は人手を介した物流に比べていかに飛行を効率化し、コストを抑えるかが普及の上で重要な意味を持っている。レベル3が生かされる地方エリアでは採算を取ることが非常に難しいと見込まれるため、なおさらだ。補助者を配置したり、看板を置いたりしていてはどうしてもコストがかさみ、ドローン物流を普及させる上で大きなハードルとなっていた。

また、道路や線路の上を通る際に一時停止を強いられることで、ドローン配送に時間を要してしまう点も事業者などの間で懸念材料だった。

そうした状況に、規制改革を担当する河野太郎デジタル相が見直しを提唱。国交省も呼応し、今年11月開催の規制改革推進会議の作業部会で、レベル3の規制を緩和する「レベル3.5」の区分を新設する方針を表明した。

レベル3.5は、ドローンにカメラを設置してリアルタイムで飛行ルート下の状況を監視できるようにしたり、万が一落下した場合に備えて損害保険に加入したり、国家資格の操縦ライセンスを取得している人を配置したりすることを条件に、補助者配置や道路上空飛行時の一時停止などの義務を撤廃。遠隔でカメラ映像を確認しながら飛行を見守ることもしやすくなるため、ドローン物流のオペレーション効率化につながるとみられる。

 
 

国交省は併せて、レベル3.5飛行の事前許可・承認の手続きも2024年度中に1日で済ませられるようにすることを目指している。オンライン申請などDXを最大限活用する方針だ。


「レベル3.5」設定の概要(国交省資料より引用)

国交省の動きに即応する形で、エアロネクストと同社子会社でドローン物流を手掛けるNEXT DELIVERYは「レベル3.5」の飛行承認を国交省から取得。12月に入り、既に両社がセイノーホールディングス(HD)などと連携してドローン物流の社会実装に取り組んでいる北海道上士幌町、茨城県境町で相次ぎ実際にレベル3.5の飛行を実施した。

境町では、目的地の利根川近くのエリアに、同町名産の干し芋やペットボトル飲料などを積んだドローンが自動で着陸、荷物を切り離した後、再び出発した施設へ戻っていった。飛行ルート上や着陸場所には補助者を置かず、看板も設置しなかった。

境町は利根川が町内を流れているため、川の上空を飛ばすことで万が一落下した場合でも人や物に被害が出るリスクをもともと大きく減らしている。レベル3.5が認められれば、さらにスムーズにドローン物流を展開できることが見込まれる。離着陸を現場で確認していた境町の関係者は「レベル3.5は非常に意義が大きい。これでわが町でもドローン物流の普及を加速させることができる」と大きな期待を寄せている。


境町で「レベル3.5」飛行するドローン。周辺に補助者は配置していない

 
 

ドローン物流の社会実装を目指している、ある民間事業者は「数km飛行しようとすると、弊社の場合、飛行ルート下に10人ぐらいは最低、補助者を配置する必要があった。地方でほぼ人は通らないことが分かっているが、決まりだからどうしようもない。1~2日の実証実験でも大変なのに、この体制でドローン物流を実用化するのはコストがかさむため非常に悩ましい」と説明。レベル3.5の新設を歓迎している。

エアロネクストとNEXT DELIVERYは他の自治体でも順次、レベル3.5の飛行を試していく考えだ。有人地帯上空をドローンが目視外飛行する最も高度な「レベル4」の飛行は昨年12月に政府が解禁したものの、「都市部でサービスとして展開するにはあと数年は必要」(別のドローン関連事業者)との慎重な見方が根強いだけに、まずレベル3.5で中山間地や離島のドローン物流が広がり、実績を重ねていくことでレベル4の実用化を早めていく効果を期待したいところだ。

(藤原秀行)※アイキャッチのドローン写真はエアロネクスト提供

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