【独自】プロロジス・モガダムCEO単独インタビュー(前編)

【独自】プロロジス・モガダムCEO単独インタビュー(前編)

「90年代にECの力を目の前で見せつけられ、物流施設に着目した」

プロロジスのハミード・モガダム会長兼CEO(最高経営責任者)はこのほど、2026年1月1日付で経営トップの座を後進に譲るのを前に、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。

賃貸物流施設市場をグローバルで成長させてきた背景として、1990年代に不動産業界に先駆けてECの将来性に触れ、その事業を支える上で物流施設が不可欠になると判断したことがあると回顧。日本で事業を拡大できたことにも満足感を示した。インタビュー内容を前後編2回に分けて紹介する。

 
 

※この記事は弊社「月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)」2025年5月号に掲載した内容に加筆修正したものです


インタビューに応じるモガダム氏

14年ごとに節目迎え、次が一区切りに

——2026年1月1日をもってCEOを退任する方針を発表されました。なぜこの時期を選ばれたのですか。
「私としては今年になって急に辞めようと思い付いたわけではなく、以前から準備はしていたんです。創設者があまりに長く会社に居座り続けるのはリスクになると考えてきました。われわれ(ダグラス・アビー、ロバート・バークの両氏を含めた3人)がプロロジスの前身となるAMBプロパティを設立したのが1983年で、それから14年後の1997年にニューヨーク証券取引所へ上場を果たし、14年後の2011年に旧プロロジスとAMBプロパティが合併して現体制になりました。このように、14年ごとに節目を迎えているので、さらに14年経過した今年が私にとっても一区切りになると思いました。今経営を担っているメンバーのリーダーシップには満足していますし、不安はありません。今後の成長を新たなリーダーシップが担っていけると思いました」

――1983年から50年以上経過していますが、ここまで長く物流不動産業界でキャリアを積めると予想していましたか。
「全くしていませんでした。頑張って新しいアイデアを出し続けてきましたが、運が良かったのもありますし、従業員に恵まれていたからこそ、ここまで続けてこられたのだと思います」

——AMBプロパティの発足から数年で投資の主軸をオフィスビルから物流施設をはじめとする工業用不動産に移したのは、今から振り返ればかなり画期的な判断だったと思います。何が契機だったんでしょうか。
「確かに最初は主要な機関投資家に代わってオフィスビルに投資するのをサポートしていました。オフィスビルは需要が旺盛で空室率は低く、当社の業績も伸びていたのですが、80年代中旬以降にホワイトカラーの労働者が増え、女性の社会進出も進み、サービス業が成長してきたことなどからオフィスビルの供給が拡大し、いずれ需給のバランスが均衡して大きな成長は見込みにくくなると予想していました」

「また、1990年代後半に大手小売事業者が当時としては非常に画期的だったインターネットスーパーを始める構想を進めていました。彼らが準備していた倉庫を見学するなどした際、ECの力を目の前で見せつけられました。これは世の中を大きく変えていくだろうと感じ、ECの商品保管や入出荷を担う物流施設を重視すべきだと思うようになったのも契機の1つですね」

 
 

「当時はグローバル展開している不動産会社の中で創業から長く存続しているところはあまりなかったので、半永久的に成長し続けていく会社を作りたいと思い、3人で1980年代からいろいろと施策を考えてきました。まだまだ当社の歴史は発展途上ですが、物流施設に投資対象を絞る決断をして、常にイノベーティブ(革新的)で新しく物を考えて先を見据えてきた結果、成長に必要な強い事業基盤を作ることができたと自負しています」

——90年代は今と全く異なり、まだダイヤル回線にモデム経由でインターネットに接続しており、非常に手間がかかる上に通信速度も遅かったと記憶しています。そんな状況でECが成長する可能性をよく見いだされたと率直に驚きます。
「不動産業界は誰も気づいていませんでしたが、自分としては当たり前の流れでした。さすがに当時はここまでインターネットやECが大きな存在になるとは想定できませんでしたが。もちろん私1人で方針の転換を決定したわけではなく、これは共同創業した2人とも一緒に検討してきた結果、決定したことです」

日本から学べることは多い

――取り組んできた変革の中で印象に残っているものはありますか。
「最近ではデータセンターの開発を加速したり、太陽光発電や蓄電池を取り入れて物流施設の脱炭素化を支援したり、商用EV(電気自動車)の充電設備を設置したりしています。なぜ物流施設専業の不動産会社がエネルギーなどの領域を手掛けようとしているのかと疑問を持つ方もいらっしゃると思いますが、お客様の課題解決を常に念頭に置いて取り組んできた結果です」

「ある調査によると企業の物流コストの中で保管費はわずか3~5%で、残りの90%以上は輸送費や人件費、在庫管理の経費などが占めています。われわれのネットワークと事業の規模を使い、保管だけではなく残る90%以上の部分でも何か効率化のお手伝いができないかと考えてきました」

――物流施設に特化して、ここまで成長を持続できた背景は?
「決していつもわれわれがやったことが正しく、間違えなかったということではありません。そもそも、いろいろなことにトライしないと間違いも起きませんからね。成長できた大きな理由の1つとして、間違ってもいいですが間違ったらなるべくロスを最小限にして修正を判断して決めることと、徐々に小さなプロジェクトからトライアルして、どんな感じでお客様やマーケットが受け入れてくれるのかをつかみながら拡大してきたということを実践できたからではないでしょうか」

――日本に進出したことも大きなチャレンジの一つのように思えます。
「評価していただけるのは非常にありがたいですし、自分の成果として誇りたいところですが、実際には最初に進出を決断したのは旧プロロジスですし、山田さん(プロロジス日本法人の山田御酒会長兼CEO)と彼のチームが日本事業を作り上げていったのが正直なところです。今はプロロジスの事業をグローバル全体で見ても、日本が一番自立しています。山田さんたちにリーダーシップを取ってもらえば問題がないと思い、事業を邪魔しないよう心掛けてきました。私に人を見る眼があったとは言えるかもしれません(笑)」

 
 

――日本は先進的な物流施設を数多く生み出しています。世界の中でも事業のレベルが相当高いのでは?
「その通りです。例えば、米国は日本の平均的な物流施設と異なり多層階ではなく上層階に直接トラックが接車できるランプウェーも付いていないことが多い。建物の仕様自体も日本のものはレベルが高いですが、それ以外の部分でも常に最新のイノベーティブな事業を展開しています。物流施設の開発にとどまらず、お客様に物流改善のコンサルティングサービスを提供しているのもその1つです。日本以外のグローバルの事業を進める上で日本から学べることは多いですね」

(写真・中島祐、本文・藤原秀行)

※後編に続く

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