【独自】アスクルがAI駆使しEC商品発注方法転換、車両削減や物量平準化を実現

【独自】アスクルがAI駆使しEC商品発注方法転換、車両削減や物量平準化を実現

着荷主として「2024年問題」対策推進

アスクルは主力のBtoB通販に関し、サプライヤーからの1回当たりの納品量を平準化する発注方法をAIで導き出す仕組みを開発した。毎回の発注量が変動することで、サプライヤーに追加車両の確保などの負荷が生じていたためだ。

サイトで特に取扱量が多いコクヨ、花王の両社と実証実験を行い、トラック使用台数減などの成果を挙げている。トラックドライバーの長時間労働規制が強化される「2024年問題」を考慮、着荷主として発荷主と連携し、物流の効率化に邁進している。

12月には、2023年度の「グリーン物流パートナーシップ会議 物流パートナーシップ優良事業者表彰」の中で、アスクルの取り組みは花王グループカスタマーマーケティング、コクヨとともに、最高位に相当する経済産業大臣表彰を獲得した。これから2024年問題がいよいよ表面化する中、アスクルなどの変革の歩みはますます大きな意味を持ちそうだ。

(この記事は弊社「月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)」2023年11月号に掲載した記事を一部修正の上、再掲載しました。役職名などは雑誌掲載当時のものです)

最適な商品積み合わせを計算

オフィス用品通販最大手アスクルの2023年5月期の業績は連結売上高が前期比4%増の4467億円と過去最高を更新。そのうち主力のBtoB通販事業は7%増の3738億円に達した。24年5月期は連結売上高が8%増の4820億円、BtoB通販が12%増の4170億円を見込む。BtoB事業が引き続き、成長のけん引役を務めている。

BtoB事業の23年5月時点での取り扱い商品数は1247万アイテム。今後は24年5月期には1470万アイテム、25年5月期には1800万アイテムまで拡充する計画を立てている。在庫商品も23年5月期の16.6万アイテムから33万アイテムまで増やすことを中期目標に掲げている。

その調達物流を効率化するため、22年にAIを活用してサプライヤーへの商品発注量を平準化する実証実験を開始した。同社は19年に、官民が連携してトラックドライバーの負荷軽減などを図る「ホワイト物流」推進運動に賛同して自主行動宣言を提出した。そこで掲げた具体的な取り組みの一つが「発注量の平準化」だ。

同宣言では「(トラックの)運行効率を向上させるため、曜日波動や月波動などの繁閑差を平準化する」と活動の趣旨を説明している。物流業界の人手不足が深刻化していく可能性を考慮して、発注量の変動をなるべく小さく抑えることで、サプライヤーがトラックを安定的に確保できるようにする狙いがある。

これまでアスクルは各商品の売れ行きを予測して、安全在庫を割り込む可能性が出てきた段階で必要分の発注をかけてきた。毎回の発注量にはばらつきがあった。そのためサプライヤーは急きょトラックの増車手配を迫られたり、逆に低い積載率でも運ばざるを得なかったりして、負荷が生じていた。

アスクル側でも商品を受け入れる物流拠点の作業量が変動して、人員の手配などで非効率が生じていた。サプライヤーが車両を確保できなければ納品が遅れる恐れがあった。双方にとって発注量の平準化が必要だった。

アスクルのマーチャンダイジング本部プロキュアメントの長浜士朗氏は「サプライヤーさんの間で急に2台目、3台目を手配しようとしても車両が捕まらないという声が顕在化してきた。路線便に関しても集荷時間の締め切りが前倒しになったり、荷物を渡しても結局納期通りに付かなかったりするといったことが起きていると聞くようになった。発注を平準化し、サプライヤーの方々にトラックを確実に押さえていただき、きっちり納品してもらうため、一緒に実証実験をやりませんかとサプライヤーさんにお声掛けした」と経緯を説明する。

実証実験はサプライヤーの中でも取引量が多い、事務用品最大手のコクヨと家庭用品最大手の花王の2社と連携した。長浜氏は「両社は経験豊富で品切れを起こす可能性は低い。しかし、取引量が非常に多いだけに、発注量の変動を抑制する必要があった」と指摘する。

このメーカー2社とアスクルはこれまでにもパレットの導入などで協力してきており、もともとアスクルの提案をすぐに受け入れられる土壌があった。実際に、発注平準化の取り組みと並行してアスクルは昨年10月、コクヨグループのコクヨサプライロジスティクスとの間で、コクヨからアスクル物流センターに向かう納品輸送と、アスクルの物流センター間の横持ち輸送を共同化する運用をスタートしている。


発注変革のイメージ(経産省など公表の資料より引用)

主要調達先に広く展開目指す

実証実験の開始に当たり、アスクルは発注量の貨物としての大きさを平準化する独自のAIシステムを開発した。サプライヤーが使う4t車や10t車に商品ケースを最大でどれだけの才数積み込めるかをあらかじめ把握。これまでの取引でアスクルが蓄積してきたコクヨ、花王両社の製品に関するサイズや重量の情報を基に、トラックにどの商品を何ケースずつ組み合わせて搭載すれば1週間の各曜日の発注量に極力ばらつきが生じず、荷台の空きスペースを最小化できるか、AIがはじき出す。この仕組みを生かせば、1週間トータルで見れば同じ物量でも、日ごとの増減をうまく吸収、ならすことが可能だ。

実証実験は22年4月から今年1月までの間、アスクルのBtoB通販を手掛けている物流拠点「名古屋センター」(名古屋市)と「DCMセンター」(東京都江東区青海)の2カ所で実施した。

実証実験の流れは次の通り。まずアスクルが各商品の1週間分の需要予測に基づく発注量の見通しを、発注日の前週にコクヨと花王に報告。メーカー側ではあらかじめ必要な数の在庫を確保して出荷準備をする。その上でアスクルが実際の売れ行きを考慮した上でAIシステムが計算した積み合わせ計画に従ってコクヨと花王へ正式に発注。両社はそれぞれ商品を両センターに納入する。

実証実験の実績を年間ベースに換算して施策の効果を試算したところ、トラックの年間累計使用台数の削減数は、4tトラックが158台、10tトラックが47台という結果が出た。CO2排出の削減量は5.1t。トラックの積載率は68.0%から69.7%へ1.7ポイント改善したことになる。

アスクルの山川剛史マーチャンダイジング本部プロキュアメント統括部長は「実証実験を開始する前のシミュレーションとほぼ同じ結果が得られた。取扱量が多い2社への発注で実際に効果を出せたのはかなり影響がある」と手ごたえを感じている。コクヨと花王の2社とは引き続き、アスクルのシステムを使い、平準化の精度をより上げていくことを目指している。

この実証実験で一定の成果が得られたのを踏まえて、アスクルは他の主要サプライヤーとも同様のトライアルを開始した。山川統括部長は「理想は全てのサプライヤーの方々に発注量平準化のシステムを適用することだが、それぞれのサプライヤーさんで事情が異なるのでさすがにそれはハードルが高い。まずは取扱量の多いところを着実にカバーしていきたい」と意欲を見せている。


「グリーン物流パートナーシップ会議 物流パートナーシップ優良事業者表彰」の経済産業大臣表彰を受けたアスクルの山川氏(左から3人目)ら

(藤原秀行)

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