東京以外の6府県は様子見
政府が4月7日、新型コロナウイルスの感染拡大阻止へ改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき「緊急事態宣言」を発令してから1日以上が経過した。宣言の対象となっている東京など7都府県は一様に住民へ外出自粛を強く求めたが、外出の機会を減らして感染まん延を防ぐため特定の業種や施設に営業自粛を要請するかどうかでは対応が分かれている。
感染者が最も多く、新たな感染事例も続々と見つかっている東京都は幅広い業種や施設で営業自粛を要請する方向で政府と調整を続けている一方、それ以外の大阪など6府県は自粛要請には慎重で、そろって様子見だ。その背景には、休業を要請するとなると補償も求められることなどがあるとみられる。
また、政府も宣言が経済に及ぼす影響の大きさを危惧し、業種や施設への営業自粛要請よりまずは住民の外出自粛要請を徹底し、その効果を2週間程度見極めることが先決との姿勢を見せており、東京都以外の6府県の判断に影響を及ぼしている。営業自粛要請に慎重な政府と前向きな都という足並みの乱れは、感染拡大防止の効果にも影響を及ぼしかねず、物流にとっても見逃せない事態だけに、早急に解消されることが求められる。
緊急事態宣言の発令を決めた政府の対策本部(首相官邸ホームページより引用)
「事業の継続が求められる事業者」公表で機先制す
緊急事態宣言が発令された4月7日、東京都の小池百合子都知事は記者会見し、人々の外出を抑制するために営業自粛を要請する具体的な業種や施設を4月10日に公表、同11日に開始したいとの考えを示した。小池知事はこれより先、「基本的に休業を要請する施設」として娯楽施設や遊戯施設、一部商業施設など、「種別によって休業を要請する施設」として文教施設などをそれぞれ挙げている。
特措法は、緊急事態宣言の対象となっている都道府県知事に対し、感染拡大を防ぐため、事業者らに対して施設の使用やイベント開催の制限・停止を要請できると定めており、正当な理由がないのに拒否した場合はより強い指示が可能。要請や指示をした施設の名称は公表される。対象は政令で床面積が1000平方メートルを超える学校や保育所、介護老人保健施設、劇場、展示場、百貨店、ホテル、理髪店、自動車教習所などを列挙している。
都もこの規定を考慮して、自粛要請する業種・施設の絞り込みを進めている。具体的な業種や施設はまだ詳細を明らかにしていないが、都としては「政府が求める『8割の接触機会削減』を実現するには徹底した外出自粛が必要」との立場から、大学や自動車教習所、スポーツクラブ、ライブハウス、百貨店、ショッピングモール、ホームセンター、理髪店など多岐にわたる業種・施設をカバーしようと検討を続けている。
しかし、政府が4月7日の宣言発令と併せて改正した基本的な対処方針では、都道府県による施設の使用制限の要請・指示は「国に協議の上、必要に応じ専門家の意見も聞きつつ、外出の自粛等の協力要請の効果を見極めた上で行う」ことを追加で明記。「政府対策本部は、専門家の意見を聞きながら必要に応じ、(対象の)都道府県と総合調整を行う」との文言も盛り込むなど、政府が強く関与していく姿勢を見せている。
さらに「緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業者」とのタイトルの文書も添付し、医療関係者や介護老人福祉施設の運営関係者、電力やガス、上下水道、通信といったインフラ運営関係に加え、生活必需物資を取り扱う百貨店やスーパー、コンビニ、ドラッグストア、ホームセンター、食堂、レストラン、喫茶店、理髪店や美容室などを多数列挙。都道府県が経済活動を広範囲に制限することに待ったを掛けた格好で、都も機先を制された形となった。
大阪府の吉村洋文知事は4月7日、外出自粛要請の効果を踏まえた上で営業や施設使用の自粛を求めることを検討する考えを表明。他の県も同じく感染状況を踏まえて自粛要請を検討する意向を示したり、飲食店や遊興施設への休業要請は行わない方針を表明したりしており、宣言と同時に自粛要請を鮮明にした自治体は東京以外になかった。
既に7都府県では大型商業施設などが自発的に営業自粛を始めるところが相次いでいる。営業自粛は物流にも関わる大きな問題だが、政府と都に足並みの乱れがあれば、事業者としても迅速な対処がしづらくなるだけに、早急な調整が望まれる。また、緊急事態宣言は地域の感染状況など実情に応じて都道府県がより適切な対応を講じられるようにするため、知事に権限を移譲しているとの建て付けだが、営業自粛要請範囲をめぐって政府の思惑が色濃く出ることが適切かどうかは今後、議論を呼びそうだ。
(藤原秀行)