【独自取材・物流施設デベロッパーのキーパーソンに聞く】オリックス不動産 投資開発事業本部 久保田勲副本部長(後編)

【独自取材・物流施設デベロッパーのキーパーソンに聞く】オリックス不動産 投資開発事業本部 久保田勲副本部長(後編)

「グループで展開のヘルスケアやロボットレンタルなどを物流施設差別化に活用」

オリックスグループで物流施設開発を担っているオリックス不動産の久保田勲投資開発事業本部副本部長はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。

久保田氏は新型コロナウイルスの感染拡大下でも先進的な機能を持つ物流施設の需要が続くと展望。コロナ禍で企業が保有する不動産を売却する動きが加速するとみて、優良な開発用地は入札にも参加して取得を図る姿勢を示した。

また、オリックスグループで手掛けているヘルスケアや金融、ロボットレンタルといった多様な事業領域を生かし、物流施設に入居する企業へのサポートを強化、差別化を図ることに強い意欲を見せた。久保田氏の主な発言の後編を紹介する。


久保田氏(オリックス提供)

リースのノウハウ生かし冷凍・冷蔵倉庫開発支援も

――あらためて、2021年の物流施設市場をどう展望しますか。
「20年はまさに好調でした。供給量は多かったのですが空室率は低い水準で推移しています。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で巣ごもり需要が増えたこともあり、eコマースや3PLがけん引する形で物流施設マーケットが成長を続けました。そうした状況が21年に変わるかと言えば、それほど大きくは変わらないと思っています」
「先ほども申し上げた通り、ESG(環境・社会・企業統治)やBCP(事業継続計画)を意識する傾向は今後さらに強くなってくると思います。仮に立地が良くても働く人にとって優しくない施設は、荷主企業の皆様が借りづらくなっていくと思います。そうなれば古い倉庫からの移転も促進されるでしょう。これはよく言われていることですが、まだまだ先進的な機能を持つ物流施設はストック全体の5%程度にすぎません。当面は物流施設への需要が続くのではないでしょうか。建て替えに関しても、オリックスはグループで金融事業を展開しています。その経験やノウハウを生かし、物流施設のオーナーの方にとって建て替えしやすいスキームをご提案することも可能です」

――確かにECは伸びていますが、コロナ禍で打撃を受けている業種が多いのも事実です。物流施設の需要面でリスクは感じませんか。
「メーカーの部品などの荷動きが厳しくなる可能性は否定できないですし、コロナ禍の影響はこれからもあるとは思います。ただ、当社の物流施設利用のメーンとなっている消費財に関してはコロナ禍のようなことがあるからこそ適正在庫を保管し続けなければならないとお考えになる企業も多くいらっしゃいます。物流施設の需要が大きく落ち込むという事態は考えにくいのではないでしょうか」
「当社はもともと開発用地の取得は相対での取引が基本でした。オリックスグループが全国約1600カ所に展開している拠点のネットワークを生かし、用地の情報を積極的に集めてきました。ただ、最初にもお話ししましたが、21年以降はコロナ禍の影響で企業がお持ちの不動産を売却されるケースが増えてくるのではないかと感じていますので、今後は入札案件にも積極的に参画していこうと思っています。もちろん、競合他社がいますから簡単には行きませんし、開発用地が不足しているといっても何にでもすぐ飛びつくことはありませんが、大型の物流施設開発にもチャレンジしたいですね」

――昨今注目されているコールドチェーンへの対応は?
「温度帯施設に関しては、老朽化がかなり進んでいる上にフロン規制強化の問題もありますから、今後非常に新築倉庫のニーズが高まってくると考えており、今勉強しているところです。冷凍・冷蔵施設はどうしても設備の償却が大きくなります。オリックスはリースが中核事業ですから、リースを活用して償却負担をうまく減らしていくことも考えられるでしょう。パッケージでご提案できるソリューションを検討する必要があります」

――最近は未曾有の災害が相次ぎ、ESGやBCPの観点からも防災対応が物流施設に強く求められています。御社はどう対応していきますか。
「先ほどお話しした松伏の施設もそうですが、地元の自治体と協定を結び、有事の際には一時的な避難場所として近隣の方々にお使いいただくことを考えています。われわれから自治体に対して積極的に提案していく必要があるでしょう」

ロボット導入の効果定量化を検討

――物流現場では自動化・省人化のニーズが高まっています。物流施設を手掛けるデベロッパーにも取り組みが求められていますが、御社はどのように対応していきますか。
「(オリックスグループで産業用ロボットのレンタルなどを手掛ける)オリックス・レンテックと連携し、ロボットのレンタルサービス『RoboRen(ロボレン)』で取り扱っている商品を、物流施設に入居されている皆様に紹介しています。オリックス・レンテック自身、ロボットに関する経験やノウハウの蓄積を進めており、積極的にお客様へロボットを使ったソリューションを提案していきたいと考えています」

――18年に御社の物流施設に入居したテナント企業にオリックス・レンテックがロボットを半年間無料で提供する取り組みを発表されました。初期の情報システム構築まで含めてフリーレントというかなり大胆な提案です。
「われわれからご提案すると、多くのお客様がいい話だよねと評価してくださり、検討はしていただけるのですが、社内で議論されると導入効果がどれくらいなのか、コストに見合う効果が得られるのかが見えにくい、というところに必ず行きつきます。ロボット化や省人化は導入効果を定量化するのがなかなか難しいという課題がある上に、お客様の現場ごとにお使いのシステムも異なりますし、カスタマイズしていく必要がある。導入効果の定量化はわれわれ自身の課題でもありますので、過去の稼働データなどを踏まえてオリックス・レンテックといかに明確に、分かりやすく効果をお客様に示せるか、手法を検討しているところです」

――物流施設の大量供給が続き、競争は激しさを増しています。差別化に向け、機能面で新しく考えていることはありますか。
「19年3月に埼玉県松伏町で完成した『松伏ロジスティクスセンター』は、働いている方々の安全管理をサポートする狙いから休憩施設のすぐ隣にフィットネス設備を導入し、自由にお使いいただいています。併せて、心拍数などを測定できるリストバンド形のウエアラブル端末を無料でレンタルしています。当社としては初の試みでした。働きながら健康を促進する施設とのコンセプトを設定しました。こうした取り組みは、今後もチャレンジしてみたいですね」

――松伏の施設のテナント企業の反応はどうですか。
「今も時々、現地に行くことがありますが、フィットネス設備はありがたいことに、パートタイムで働いている方々が使ってくださっています。街のフィットネスルームは有料ということもあり、仕事が始まる前や仕事が終わった後に運動し、さっとシャワーを浴びて帰宅されている。テナント企業の方には求人広告にもその点をぜひ載せてくださいとアドバイスしています」
「実は松伏の施設をメディアで取り上げていただいた時に、入居をお考えになっている企業よりも、その施設で働けますかという個人の方からの問い合わせの方が多かったんです。健康に対して意識の高い方からの問い合わせがかなり寄せられていて、手ごたえを感じました」

――物流施設は周辺地域の方が勤めるケースが多いと思いますので、地元の地域にどう貢献していくかというコンセプトもさらに重要になってきそうですね。
「そう思いますね。やはり従業員の確保は今も物流施設運営の大きな課題ですので、働きながら健康を促進できる施設ですよ、というコンセプトは大事だと感じています。今後もフィットネス設備に限らず、何ができるのかをいろいろと考えていく必要があります」

――御社を含めたオリックスグループが抱えている多様な事業領域は、健康促進をはじめ物流施設の差別化を図る上で有効なのでは?
「その通りです。例えばグループには自動車のレンタルやリースを担うオリックス自動車がありますから、テナント企業の方々へ自動車を軸にしたサービス提供が可能です。先ほどお話ししたオリックス・レンテックもそうですし、オリックスの環境エネルギー本部では太陽光発電事業を展開していますから、物流施設の屋根に発電パネルを設置した売電、発電事業もサポートできます。健康促進についてもオリックスでヘルスケア領域に注力しています。いわば物流施設からの派生事業を、オリックスグループの機能を使うことで腰を据えて検討していくことができます」

――最近はデベロッパーが先進技術を持つスタートアップ企業と組むケースが相次いでいますが、御社はいかがですか。
「その可能性はあると思いますね。今具体的にお話できることはないのですが、物流業界に貢献できる技術をお持ちのスタートアップ企業とは、出資や提携などを積極的に考えていきたいと思います」

(藤原秀行)

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