【独自】パーソルグループの「ストーリー漫画」使った独自研修、物流業界でも採用広がる

【独自】パーソルグループの「ストーリー漫画」使った独自研修、物流業界でも採用広がる

セクハラやパワハラなど多様なテーマカバー、文字のみより理解度高い傾向に

人材派遣大手パーソルホールディングス(HD)傘下で新規事業創出を手掛けるパーソルイノベーションが2021年8月に提供を始めたeラーニングの新たな形態の法人向け研修サービス「コミックラーニング」が好評を博している。具体的な例を用いたストーリーの漫画を教材として活用しているため、文字が中心のテキストを使った研修よりも参加者が親近感を覚え、内容が伝わりやすくなるのが特徴だ。

セクシュアルハラスメント(セクハラ)やパワーハラスメント(パワハラ)、メンタルヘルス、個人情報保護、インサイダー取引といった難しいテーマも積極的に取り扱っている。利用する企業の実情に応じて教材の内容をカスタマイズすることも可能だ。

最近は物流業界でもコミックラーニングを採用する動きが広がっている。物流業界はさまざまな現場を抱えているだけに、対象者が一堂に会して講習を受ける旧来型の研修はどうしても難しいことなどから、対象者が自分のペースで教材を使って学べる点が重視されている。働き方改革など物流業界を取り巻く大きな環境変化への対応を後押しできる存在として、今後もさらに物流業界からの注目度が高まっていきそうだ。


日本通運向けのコミックラーニング教材のイメージ(パーソルイノベーション提供)

3年で累計利用者110万人突破

コミックラーニングは、パーソルイノベーションの新規事業創出プログラム「Drit(ドリット)」で採択、事業化された。従業員自らが起案したアイデアを実際に事業として育てていくのが狙いだ。

コミックラーニングは既存の教材を利用するプランと、企業の実情に沿って内容をカスタマイズできるプラン、コミックの登場人物になりきるワークショップを実施するプランをそろえている。教材のコミック自体はスマートフォンやタブレット端末などを使い、1回当たり5分程度で手軽に読めるため、忙しい人でも自分のペースで研修を受けられるのがメリットだ。

パーソルイノベーションはこれまでに情報セキュリティやパワハラ、セクハラなど70以上のテーマで教材を作成してきた。単にコミックにするという安直な発想ではなく、ストーリーを練り込んで起承転結を持たせた分かりやすい内容になっていることが関心を呼び、ユーザー数はサービス提供開始から3年が経過した今年9月に累計で110万人を突破。利用している業界も製造業や物流業、小売業、金融業、サービス業、官公庁など多岐にわたる。従業員の中で研修を受ける割合も国の調査では3割程度にとどまっているが、コミックラーニング受講は8~9割を超えてくるという。

例えば、ハラスメントに関する教材では、日常の業務の中で「販売成績や役職があるから周りが従うのは当たり前」という認識が大きく間違っていることを明確に指摘するなど、いかにハラスメントの被害を受けないか、周りにハラスメントの被害を及ぼさないかを分かりやすく示している。

物流業界の採用ケースも増えている。マルハニチログループのマルハニチロ物流は2022年、自社従業員約600人を対象とした社内研修のeラーニングにコミックラーニングを採用。情報セキュリティや社内のDXの重要性を説いており、「製品やサービスをデジタル化したり、仕事でアプリやツールを使ったりすることはあくまでDXに至るステップの1つに過ぎない」ことなどを分かりやすく解説している。受講者を対象としたアンケートでは「文章と絵の双方で読みやすい」「日常の業務に近い会話による説明が理解しやすい」との評価が聞かれたという。

日本通運も22年、従業員向け社内研修でコミックラーニングを採用。実際に起きた個別の事案や登場人物のキャラクターの性格を踏まえてコミック化する受託制作プランがあった点などが決め手になったという。同社はコンプライアンスの重要性をコミックラーニングで訴えることに主眼を置いた。

関西丸和ロジスティクスも23年、管理職向け研修ツールにコミックラーニングを取り入れた。コミックラーニングはPDFで閲覧することが可能なため、社内のイントラシステムにも掲載し、誰が学習したかを管理できるようにしたという。


マルハニチロ物流向けコミックラーニングの一コマ(パーソルイノベーション提供)

パーソルイノベーション コミックラーニングCompanyの林裕子氏は「物流業界の方々からは、ミスした時の正しい怒り方や考えの伝え方、会議のファシリテーションの仕方などコミュニケーション系のご相談が増えている印象がある。自分が受けてきたマネジメントの仕方しか知らないので不安を覚えるというお悩みも多い。同業他社が前向きなことをやられているのを知って、うちも導入したいとおっしゃっていただける事例が増えている」と明かす。

「物流業界では営業所や倉庫が点在しているため、全員が集まっての研修はなかなか難しい。個々の営業所でも研修を主催できる人材が不足していたり、現場業務なので1人1台パソコンが配備されていなかったりもする。そうした方々にスマホやタブレットで、シーンごとに何が良いのか悪いのかを知っていただくことの意義は大きい」と強調している。

安全運転などについてのコミックラーニング製作を打診する動きも出ており、物流業界の関心の高まりを感じている日々だ。林氏は「利用された企業の約8割が次年度もやりたいとおっしゃってくださっている。コミック教材を使ったワークショップを希望される方も増えている」と明かしており、引き続き物流業界向けに、学習に入る壁を取り払った“カジュアルだが短い時間で学べる”研修を広めていこうとしている。


林氏

(藤原秀行)

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