物流ロボット最前線【お待たせしました! GROUNDコラム第3回】

物流ロボット最前線【お待たせしました! GROUNDコラム第3回】

連載「物流危機を乗り切るための10の視点」第3回

物流ロボット最前線
GROUND 池上裕亮 人事総務部 部長 兼 営業本部 ソリューションコンサルティング部 Chief Logistics Coordinator

未曾有の人手不足など逆風が吹きつける物流業界。この危機を乗り切り、持続可能な物流基盤を確立していくには、まず現状を正しく認識することが不可欠とロジビズ・オンラインでは考えています。

物流業務効率化の新技術開発に取り組むスタートアップ企業GROUNDのメンバーに、日々の業務で蓄積してきた知見を基に、業界全体が連携して生き残っていくための貴重な視点をリレー形式のコラムで提供いただいております。

全10回の連載コラムの第3回目は、「物流ロボット最前線」をテーマに、物流・EC業界を取り巻くロボットのトレンドや背景、そして最も気になる「これから」を紹介・解説します。担当は国内の物流・ECに長く携わってきたGROUND の池上裕亮氏です。


池上氏(GROUND提供)

倉庫自動化の歴史

昨今、EC・物流業界では自動化、省人化が求められており、その中でも“ロボット”が重要なキーワードとして注目を集めていることは皆さんご存知の通りです。GROUNDにも「ロボットを導入したい」「ロボットを活用した新たな物流改革が必要」という相談がとても多く入ってきます。

では、なぜここまでEC・物流業界でロボットが注目されることになったのでしょうか。まずはその背景や歴史などをひも解いていきたいと思います。

倉庫の自動化は、製造業を中心に1980年代までさかのぼります。日本の工業製品における競争力が欧米のそれを凌駕し始めた時期で、特に製造業では活発な設備投資が行われました。これに伴い、工程間・工程内自動倉庫と無人搬送車(AGV※1など)、さらに生産設備までをコンピューターで統合した生産システム(いわゆるFMS、FA)が構築されました。

AGVにおいても、1980年ごろから工場などで部品や材料、完成品を運ぶことに使われ始め、その歴史は産業用アームロボットと同じく、数十年にも及びます。ですが、従来型の一般的なAGVは床面などに張られた磁気テープなどの誘導により無人で走行する仕組みのため、決められた場所、決められたルート、決められた同一作業しかできませんでした。現在でも、人追従型と呼ばれるような、人の後を付いていて動くAGVが多く見られます。

80年代半ばになると、当時の経済環境や人手不足と相まって、主に大企業を中心に導入されてきた「自動化モデル」が中小の製造業にも採用され、同時期におけるテクノロジーの向上により、パッケージソフトを利用して比較的容易に在庫管理ができるようにもなりました。そして、物流センターでは小口出荷に対応する必要が生じるにつれ、ロボットと初期の画像処理を利用した位置認識装置を組み合わせたケースピッキングシステムが導入され始めたのが90年代半ばごろとなります。

この流れを受け、物流センター(EC)を自動化しようという試みがたくさん成されましたが、なかなかうまくいかないという状況が続きます。これには、さまざまな理由があるのですが、ここでは主な2つの理由について簡単に言及します。

1つ目は、シンプルに投資対効果が合わないということです。当時の物流センターでは365日・24時間稼働は珍しく、短時間稼働が主流だったため、物流センターの自動化という大きな投資に対する効果が得難い状況だったのです。

2つ目の理由は、“オペレーションの複雑さ・煩雑さ”です。事業者がそれぞれ取り扱う商材の違いや、求められる物流品質(サービスレベル)の違いなどにより、物流施設でのオペレーションが複雑かつ煩雑となり、単純に自動化することが困難となったのです。

この2点を含め、さまざまな課題が山積する中で経営判断が難しい局面があり、ロボットをはじめとした自動化に向けた取り組みへの一歩がなかなか踏み出せなかったのが実情だったと推察されます。

こういった背景の中で、昨今では、少子高齢化に起因する人手不足=労働力確保の難しさやEC市場の拡大などの外部環境が変化し、従来の内部環境課題とともに両者を解決する必要性がこれまでにないほど高まり、物流センター内における労働集約型から装置産業型へのパラダイムシフトが求められているのです。

※1:「Automatic Guided Vehicle」の略。自動搬送車。無人で搬送や荷役を行うフォークリフトや搬送台車。軌道のあるタイプと無軌道のタイプがある。

「GTPロボット」の誕生

では、長らく「自動倉庫+AGV」という図式がスタンダードと理解されてきた中で、ロボットが選択肢として挙がるようになったブレークスルーはいつなのでしょうか。

それは、2012年に米Amazon・ドット・コム(以下、Amazon)が米キバ・システムズ(現アマゾン・ロボティクス。以下、キバ)を7億7500万ドル(約840億円)で買収した時になります。

キバは「Goods-to-Person型」(以下、GTP)と呼ばれる、人(作業者)がいる場所へピックアップする商品を棚ごと運んでくるロボット『Drive』を世界で初めて開発した企業です。EC・物流業界のグローバルなリーディングカンパニーであるAmazonが行ったこの買収で、GTPロボットに一気に注目が集まるようになりました。

Amazonに買収される以前の貴重な『Drive』によるオペレーション動画は以下からご覧いただけます。『Drive』がいかに革新的であったかがよく分かると思います。


<キバが開発したGTP型ロボット:『Dirve』(Wired公開動画)>

GTPはセンサーやソフトウエアの力を活用することにより、AGVとは異なり、より複雑な指示に対しても流動的に動き、生産性を向上させる仕組みを実現しています。GROUNDでは17年よりインドのスタートアップが開発したGTPロボット『Butler』(バトラー)を日本の物流現場へ導入してきました。

関連資料:<GROUNDによって国内の物流現場へ導入された『Butler』の詳細>
事例①:GROUND、トラスコ中山で最新鋭の機能を搭載した物流ロボット『Butler(バトラー)』を本格稼働
事例②:GROUND、「Intelligent Logistics®」と物流ロボット「Butler®」を大和ハウス工業とダイワロジテックへ提供

こういったGTPロボットの特長は「(自動倉庫と比較して)拡張性が高いということ」です。上記の動画を見るとお分りの通り、人(作業者)はステーションと呼ばれる定位置から動かず、お客さまから注文が入った商品が棚ごと運ばれてきたら、それをピックアップします。オペレーションとしてもシンプルであり、高い生産性を保つことが可能となります。

このオペレーションでは、誤ったピックアップの低減、業務負荷(倉庫内の歩行距離)低減、育成・教育などの間接コスト低減、ロボットエリアの照明コントロールによる省エネ運営などがメリットとして挙げられます。

一方でGTPロボットは「新設の倉庫や施設のレイアウトと作業オペレーションをゼロベースで構築しなければならないこと」「床の設計・加工の難しさ」「初期投資が比較的大きく、導入までのスパンも長いこと」「空間利用(高さ)の非効率性」「オペレーション人員の役割変更」――などのデメリットもあります。

以下の動画は、Amazonが新設の倉庫建設に併せて『Drive』を導入する様子が収められています。


(Channel4Documentary動画)

Amazonによるキバの買収で世界中の注目を集めたGTPロボットですが、8年経った今、EC・物流業界はとても冷静にそのメリット・デメリットを見ているように感じます。その理由は、一定の期間を経て、最初にGTPの試験的採用を行った事業者層から、新たに今後GTPの普及の可能性を踏まえて購入するユーザー層への移行期であるためです。

また、導入するに当たり「検討しなければならない項目」が明確になりつつあること、さらには、他のロボットが開発されたことにより選択肢が広がったことなども理由として挙げられます。物流は決して止めることができない領域ですから、GTPロボットを自社で導入できる事業者はある程度限られてしまうと言えるでしょう。

物流・EC分野において注目を集めるAMR

前述したように、GTPロボットへの関心が穏やかになってきた今、新たに注目を集めているのが「Autonomous Mobile Robot(以下、AMR)」と呼ばれる「自律型協働ロボット」です。

今、このAMRタイプのロボットは、ロボット開発における最も競争が激しい先端分野の一つと言えます。日本国内でも、この1~2年でさまざまなメディアで「AMR」に関する報道が増加傾向にあり、「自律走行型搬送ロボット」、「自律走行型協働ロボット」という言葉を耳にした方も多いのではないでしょうか?

AMRが今注目される、その最も大きな理由として挙げられるのが、「柔軟性」と「(他のロボットと比較した場合の)導入障壁の低さ」です。GTP型ロボットは基本的に従来の倉庫・施設内のレイアウトと作業オペレーションをゼロベースで構築しなければならず、また導入までのスパンも長いというデメリットがありました。

ですが、AMRの最大の長所は、既存の施設・倉庫のレイアウトや作業オペレーションを大幅に変えることなく導入ができることです。一方で、基本的に人(作業者)と協働することを前提に開発されているため、一般的なAMRでは「ロボットができないこと=モノをピックアップしてバスケットなどに入れる」などの部分オペレーションを人(作業者)が行うという設計になっており、GTP型ロボットと比較すると生産性は低くなります。

これらを踏まえ、EC・物流現場へAMRの導入を検討している方にお伝えしたいのは、AMRと一言に言っても搭載されている技術や機能には大きな幅がある、ということです。自社の話になってしまい恐縮ですが、GROUNDでは18年よりグローバルパートナーである中国のロボットメーカーとAMR『PEER』(ピア)の共同開発を進め、19年11月に日本初となる物流・EC現場へ導入した実績があります。いまだ国内の物流・EC分野においては共同実証および概念実証ステータスのAMRが多く、その特徴もさまざまです。われわれが提供する『PEER』は、以下のような特長があります。


GROUNDの『PEER』(同社提供)

① 先端のSLAM※2技術とカメラ・レーザーの連携により、ロボット自身がリアルタイムに位置情報を取得し、物理的なレイアウトへマッピングすることが可能です。さらに、経路情報を設定することなく自律走行できるため、経路上の障害物を回避した最適な経路を選定します。
② 物流施設内の作業オペレーションやレイアウトの大幅な変更をすることなく、スピーディーな導入が可能です。
③ 直観的な操作性により、作業者への教育を最小限にとどめることができます。

今後、さまざまなAMRが物流・EC業界に導入されていくと予想しますが、その際ポイントになるのは、
1「施設・倉庫のレイアウト・オペレーションを大幅に変更することなく導入できるか(ロボット単体の制御、すれ違いの制御)」
2「無軌道であるか(QRコード※3・磁気テープ・バーコードなどの導線が不要)」
3「複数台(30台以上)の最適化制御が可能か」
4「安全性が確保されているか(協働前提だが、一定の移動スピードを確保)」
5「障害発生時における簡単なリプレイス」
――だと考えます。この5つのポイントをクリアしているAMRであれば、搭載されているテクノロジーがある程度新しいものであり、次世代型のロボットソリューションだと言えるでしょう。

上記のポイントを踏まえた上で、日本の物流オペレーションへの理解がきちんとなされているか、つまり「実用性」に注意することも大切です。

※2:「Simultaneous Localization and Mapping」の略。センサーによって周囲環境を把握し、マップを作成しつつ取得したデータを基にロボット自身の位置を推定する技術。
※3:「QRコード」の商標はデンソーウェーブの登録商標。

国内における主な物流・EC事業者のロボット導入事例と
これから求められること

2010年代に入り、欧米を中心に物流・EC分野におけるロボット開発スピードは加速しました。これを支える背景には、リチウムイオン電池・カメラやレーザー・SLAMなどのテクノロジーの進化や低価格化があります。

これに伴い、以下のような物流・EC分野におけるさまざまなロボット事例が国内で生まれました。

・16年12月
Amazonの川崎フルフィルメントセンターでAmazon Robotics(キバ)を国内初導入


「Amazon Robotics」(アマゾンジャパン提供)

・17年12月
GROUNDがニトリホールディングスへGTP型ロボット『Butler』を提供

・19年2月 
楽天が京東集団の地上配送ロボット(Unmanned Ground Vehicle=UGV)とドローンを導入


楽天が導入を発表した京東集団のUGV

・19年2月
ソフトバンクロボティクスの物流分野参入
・同5月
アスクルがMUJINとアーム型ロボットの共同開発
・同7月
日本通運がラピュタロボティクスの開発するピッキングロボットで実証実験を展開


日通とラピュタの実証実験(日通提供)

・同10月
DHLサプライチェーンがギークプラスの開発したロボットを導入
・同11月
ファーストリテイリングがExotec Solutionsと協業し、MUJINの開発したピッキングロボットを導入

今後もテクノロジーの進歩やオペレーションの創造により、物流分野に適したロボットが開発されていくことでしょう。

物流・EC業界で進むロボットの導入は、消費者ニーズの高度化(多様化と複雑化)、EC化率の伸張、少子高齢化による生産人口の減少など、同業界を取り巻く環境を鑑みると必然だと言えます。こういった課題については、GROUNDコラムの第1回最新データに見る物流を取り巻く環境の変化―今起きているパラダイムシフトとは―で言及していますので、ぜひご覧ください。

「物流・ECとロボット」を考える際、重要なポイントになるのが「ロボット導入が目的になっていないか」ということです。ロボット導入による部分最適は、ある程度まとまった規模でロボットを導入しないと生産性向上につながらないことに加え、GROUNDコラムの第2回Logistics as part of smart city―物流イノベーションに必要な4つのトレンド―にあるように、物流施設・倉庫の自動化・最適化を実現するには、物流ロボットという「器」だけではなく、側面支援となる「頭脳(物流作業判断支援ツール)」の導入も必要になってきます。

顧客ニーズの高度化への対応が求められる日本の物流環境においては、オペレーションにソリューションを合わせるというよりも、ソリューションに一歩歩み寄ったオペレーションを実現する方が有用的な倉庫運営が実現できるのではないかと思います。

また、Amazonのように1社で最先端の物流インフラを構築できる大企業は限られています。そして、ハードウエアは時間の経過とともに陳腐化します。現在のテクノロジーの進歩、ロボットの開発スピードを踏まえると、自動倉庫のような大規模投資を単独で行い、何年もかかって償却をしていくのでは費用対効果効率や生産性が見合わなくなってくるリスクもあるのです。ハードウエアのライフサイクルスパンがテクノロジーの進化により、どんどん短期化しているからです。ロボットにおいても同様のことが考えられます。

そこで重要となってくるのが「シェアリング」です。シェアリングエコノミーはさまざまな業界で浸透してきていますが、物流・EC業界でも同じトレンドがくると予想できます。

18年4月にGROUNDが大和ハウス工業と共同開発した、シェアリング・従量課金型の次世代型物流施設を皮切りに、フルフィルメント事業者、3PL事業者を中心に、ロボットをはじめとする最新テクノロジー・建物・設備・人(作業者)・ノウハウ&ナレッジなどをシェアリングできる施設がどんどん誕生しています。さらに、今後は、物流・ECロボットのリース化も進んでいくことでしょう。

物流・EC事業者の皆さまは、こういったシェアリングも一つのロボット活用の選択肢と把握され、自社が取り扱う商品、配送形態、マーケット環境、事業・経営戦略などと照らし合わせた上で、あくまでもロボットは手段の1つと捉え、自動化・省人化を実現する上で、自社に相応しいロジスティクス戦略、物流戦略を組み立てていくことが重要になってくるでしょう。

著者プロフィール
池上裕亮(いけがみ・ゆうすけ)
九州工業大工学部生命体工学科卒。
2004年ケンコーコム(オペレーション企画室長/DropShip事業部長)。EC物流における一連の導入・成長に伴う自社物流の構築とロングテール商材を活用したプラットフォーム展開に従事。
12年ローソン(HC事業部OPF事業部シニアマネジャー)兼SGローソン(事業開発部長)。3温度帯物流、ネットスーパーの立ち上げに従事。
16年LCORDYを設立し、代表兼COO(最高執行責任者)に就任。ロジスティクス事業企画、業務改善、運用・庫内設計、物流に関するコンサルティング事業を展開。
17年からGROUNDに参画、現在に至る。

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