両社幹部オンライン会見概要(その1)
日立製作所は4月8日、産業用ロボット関連の技術開発を手掛けるスタートアップ企業のKyotoRobotics(滋賀県草津市)を同1日付で買収したと発表した。両社などが4月8日に開催したオンライン記者会見の概要を報告する。
オンライン会見の様子
【冒頭発言】
「今回の買収形式は日本で頑張るベンチャー企業に新たな道を開く」
日立製作所・森田和信 執行役常務 産業・流通ビジネスユニットCEO(最高経営責任者)
「KyotoRoboticsはグローバルで通用する高い技術力を持っていると評価している。日本の競争力の原点であるモノづくりの技術をみんなで集約しながら、一緒にグローバルで事業を展開していきたいと日々考えている。今回の買収は日本にとっても、日立にとってもあまり例のない新しいモデルになっている。日本で頑張っているベンチャー企業に新たな道を開くという意味でも、今回の買収は非常に意義があると思っている」
「当社は2019年、自動化ラインで優れた技術を持っている米国のJRオートメーションテクノロジーズを買収した。KyotoRoboticsをパートナーに迎えることで、JRオートメーションテクノロジーズはこれまで以上に強力な技術を手に入れることになるし、KyotoRoboticsはグローバルでJRオートメーションテクノロジーズが持つ幅広い顧客基盤に技術を提供できるようになる。相互に大きなシナジーが出ると考えている。自社だけでなく、優れた技術を持つ企業とパートナーリング、アライアンスなど組みながら、社会への貢献、事業成長を一緒に目指していきたい」
「さらなる大きな舞台を提供いただけることに」
KyotoRobotics・徐剛社長
「われわれが掲げているロボットの知能化を通じて社会に貢献する、重労働から人間を解放するというミッションに向けて、顧客満足に向けたさらなる基盤ができたということで、大変うれしく思っている。今までたくさんのご支援をいただいたINCJ、スパークスを含め多数の株主の方々にお礼を申し上げたい。また、日立製作所さんにも当社の技術を高くご評価いただいたことに厚く御礼申し上げたい」
「当社は立命館大発のベンチャーとして20年前にスタートして以来、3次元ビジョン、ロボットビジョン、ロボットコントロールといった技術開発で常に世界最先端を走ってきた。今までもJILS(日本ロジスティクスシステム協会)のロボット大賞を受賞するなど、社会から激励をいただいてきた。われわれが作る3次元ロボットビジョンセンサー、ロボットコントローラはロボットSIによってロボットシステムに組み込まれて、初めて顧客価値を生む。ロボットSI事業に非常に注力されている日立とアライアンスを組むことにより、われわれ単独では難しい多数のお客様に技術を提供することが可能になるという意味において、さらなる大きな舞台を提供いただけることになった。われわれの努力でさらなる成功を実現させていきたい」
「大企業とスタートアップのオープンイノベーション発展に貢献を期待」
INCJ・芦田耕一執行役員
「日本ではまだまだ大企業が、ベンチャーを買収することは少ない中、今回の買収は1つの先例になり、成功する事例になって、これからわが国のオープンイノベーションのさらなる発展に貢献できれば、と期待している。われわれは140件を超える投資決定を行い、1兆円を超える支援を行ってきた。70件近いエグジットもこれまでに実施している。新規投資は終了しているが、今後も投資先の価値向上とエグジットを進める」
「KyotoRoboticsに投資したのは2016年。製造現場の競争力向上に貢献する画期的な技術を開発された。国内のみならず海外に事業展開することを支援するとともに、大学発ベンチャーの成功事例を作ることを支援するのが目的。そこからの5年間、力に磨きをかけ、ロジスティクス分野にも取り組まれ、ロジスティクス大賞など受賞された。そして、このたび、技術力が日立に高く評価され、今回の資本提携につながったことは、われわれの投資仮設が正しかったことの証左だと考えている」
「株式上場で成功するスタートアップは増えているが、大企業とアライアンスを組んだり、子会社化されたりする例は国内でまだまだ多くない。今回の両社の提携が、オープンイノベーションの先進的ケースになり、日立の(先進デジタル技術を生かして顧客企業にサプライチェーン運営効率化などのソリューションを提供する事業)『Lumada(ルマーダ)構想』の大きな枠組みの中で、KyotoRoboticsが有機的な役割を果たし、さらなる成長を遂げることを期待している 今後も大企業とスタートアップのオープンイノベーション創出に貢献していきたい」
今回の買収が目指す姿(各社公表資料より引用)
「安定市場のFAに加え、大きな成長見込めるロジスティクスに参入」
日立製作所・神田充啓ロジスティクス事業推進本部長
「KyotoRoboticsは世界最高水準の3次元センサーを組み込んだ知能ロボットシステムのリーディングスタートアップ企業。ロジスティクス分野ではデパレタイズ、かご車パレットのパレタイズなどの作業シーンなどで活用されている。ロボットに必要な技術を保有し、400台以上の納入実績がある」
「新型コロナウイルスの感染拡大もあって多くの課題が顕在化し、社会やお客様のニーズが大きく変化する中、当社はQoL(クオリティ・オブ・ライフ)向上へ環境、レジリエンス、安全・安心という価値の提供を進めている。特に昨今のeコマース需要の急拡大に伴い、在庫とタイムリーな配送が求められる中、ロジスティクスの要となる物流センターも環境負荷軽減、労働力不足、コスト高騰、3密回避といった課題解決へロボット技術による自動化・省力化、DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速が求められている」
「国内のロボット市場の動向を見ても、FAの分野は安定的で大きな市場がある一方、ロジスティクスはかなり大きな成長が見込まれる。われわれは特にこのロジスティクスの分野で、成長に遅れることのないよう、早期の参入を目指していきたい。当社はこれまで、われわれが商品として持っているRacrew(ラックルー)という棚搬送ロボットによる省人化を中心に取り組んできたが、KyotoRoboticsのロボット技術を組み合わせることで無人化への取り組み強化、さらなる効果を生むと期待している。IT強化にも注力しており、デジタルツインを強化することで貢献していきたい」
「物流センターの中のプロセスでどういうソリューションができるかというと、搬送と保管~ピッキングで特徴のある強いコンテンツのRacrewに今回のロボット技術を適用することで、入荷の荷降ろし、積み付けの出荷業務に対応できるようになるため、物流センター業務をエンド・ツー・エンドで提供することが可能になる」
「今回のKyotoRoboticsとのシナジー効果は主に4点。1つ目がIT・AI(人工知能)とOTの融合によるトータルシームレスソリューションで、特に物流センターの自動化・高度化が加速されると思っている。2つ目がキーコンテンツの創出。さらにコアテクノロジーを使うことで差別化、価値提供を深め、ロジスティクスとFAのビジネスを拡大できると考えている。3つ目がこれまで提案できていなかった領域・業界への提案機会が獲得できると考えている。最後に、両社の技術を掛け合わせることで、ロジスティクス、FA分野の自動化で技術トップを目指すことができると考えている」
(藤原秀行)