【独自】シャープ、物流領域の自動化・省力化支援拡大

【独自】シャープ、物流領域の自動化・省力化支援拡大

最大500台のAGV稼働可能なロボットストレージシステムを積極提案、保管効率は1.5倍に

シャープは、物流領域の自動化・省力化支援を拡大させる。大量のAGV(自動搬送ロボット)を同時に制御できる技術を生かし、今年2月にピッキング作業を効率化することが可能な「多階層ロボットストレージシステム」を発表した。

ロボットが商品を保管した棚を持ち上げ、作業エリアまで運ぶことで「人が歩かない倉庫」を実現。さらに、庫内に中2階を増設することで既存の倉庫の仕様を大きく変えずに収納効率を1.5倍に高められるのが大きなメリットだ。

シャープはEC市場の拡大で先進的な機能を持つ賃貸型物流施設が増える一方、人手不足で現場作業の自動化・機械化が求められていることを重視。作業の生産性改善と保管効率向上を合わせて実現できる点を積極的にアピールしていく構えだ。


多層階ロボットストレージシステム。1階と中2階にそれぞれ商品を保管、AGVが棚を搬送することで「人が歩かない倉庫」を実現する(シャープ提供)

一般的な物流施設のフロア高さにフィット

シャープは家電製品に加え、1970年代以降は工場内の機械化支援にも注力。部品の自動保管システムや重量物搬送に対応した超大型AGVを提供するなど、現場のニーズに細かく対応してきた。現在は「スマートビジネスソリューション事業本部」が工場に加えてオフィスや商業施設の業務効率化も手掛けている。ロボットを使った工場内の搬送自動化などの経験を生かし、物流にもターゲットを広げていこうとしており、多層階ロボットストレージシステムは、本格的に物流現場の自動化・省人化に照準を合わせた初の製品となった。

新システムは物流施設のフロアを中2階にし、最大5.5mの高さまでを保管スペースとして活用できるようにしているのが大きな特徴。中2階でAGVがピッキングする商品を収めた棚をリフター(自動昇降機)まで運び、ピッキング作業スタッフのところへ届く。商品をピッキングした後は、再び中2階まで自動的に戻り、AGVが保管エリアへ搬送する。

中2階は人間が立ち入らないロボット専用のスペースとして運用。出荷頻度が高い商品は1階、それほど高くないロングテールの商品は中2階にそれぞれ配置するイメージだ。1階部分もAGVが棚を運ぶ。

一般的な賃貸物流施設の天井高として多く設定されている5.5mにうまくフィットするため、シャープはフロアを最大限生かせると見込む。商品の需要に応じて商品の保管スペースを広げることが可能で、仮に物流拠点の集約などで新システムを撤去・移動させる場合でも原状回復を迅速に済ませられる。

AGVの渋滞や“お見合い”を回避

もう1つの大きなポイントが、最大で500台のAGVを同時に、効率良く制御できる点だ。シャープが独自に開発した、AIによる集中制御システム「AOS(AGV Operating System)」がAGVを最適に配置し、特定のエリアに集まって渋滞したり、AGV同士が接触したりといったトラブルを防ぐ。例えば、2台のAGVが近接した場合、“お見合い”して完全にストップさせてしまうのではなく、一方のAGVがスピードを落とし、もう一方のAGVを先に通すなど、作業の効率を落とさない制御を実現している点が強みという。各AGVの走行データは保存し、モニター上で再生することも可能だ。


システム運用のイメージ(シャープ提供)

同社スマートビジネスソリューション事業本部スマートエンタープライズソリューション事業部の岩本隆司事業部長によれば、2017年当時は制御可能な台数が最大20台くらいだったという。その後5年余りで大幅に機能を向上させた。岩本事業部長は「高速道路の合流の仕方のようにAGVが相手の動きに合わせる細かな技術を使いながら、制御台数を増やしていくことができた」と語る。

導入するAGVの台数などは顧客の現場に応じて調整する。シャープが想定している一般的なモデルでは、フロアが500㎡の場合、商品棚が430本、ロボットが60台前後という。岩本事業部長は「どの程度のフロアサイズになるかにもよるが、最短で導入は半年くらいで済ませられる見通し。今後導入実績を積み重ね、運用が安定してくればさらに短くできるのではないか」とみている。

シャープは初年度の2023年度に5件のシステム納入を目指している。工場の部品倉庫などへの活用も可能だ。トラックドライバーの長時間労働規制が強化され、物流現場に混乱が生じることが懸念されている「2024年問題」もあって、各物流拠点の入出荷などの業務を迅速化することへのニーズがさらに高まっていくことは確実だけに、岩本事業部長は「性能に磨きをかけていきたい。将来は海外展開も視野に入れていきたい」と意気込んでいる。

(藤原秀行)

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