X Mileが実態調査、ドライバーは退職理由「給料低い」など割合高く
物流や建設などの業界向け業務効率化支援システムを展開しているX Mile(クロスマイル)は4月28日、物流業界の働き方に関する実態調査「クロスワークしごと白書2025」の第二弾として、「物流業界の人材採用・定着課題編」の結果を公表した。
全国の物流事業の経営者・役員185人と、トラックドライバー720人の計905人を対象に、物流業界における採用・定着・働き方の現状を尋ねた。
調査の結果、多くの物流事業者がドライバー不足を実感しているものの、従業員の退職理由を把握できていない向きが一定数存在することが分かった。
クロスマイルは「トラックドライバーの職場満足度は低く、給与や拘束時間、人間関係への不満が離職の大きな要因となっている」と分析。育児休業制度の利用が進んでいないことや設備環境など課題も浮き彫りになったと指摘している。
若手ほど福利厚生や安定雇用を重視する傾向があり、地域によって定着への課題感に差が見られるという。
クロスマイルは「物流業界全体として、人材流出の背景を理解し、多様なニーズに対応した職場環境の整備と、時代に合った人材戦略の再構築が急務と言える」と解説している。
■調査概要
・調査期間:2025年3月12~21日
・調査方法:インターネット調査、ウェブアンケートによる調査
・調査対象:全国20代以上の男女
└物流事業者の経営者・役員の方185人
└当社求人・転職サイト『クロスワーク』の会員登録者720人のトラックドライバー
事業者にドライバー不足の程度を質問したところ、6割超が「課題に感じている」を選択。「どちらでもない」は16.2%だった。
エリア別では、特に中国地方が75.0%で人手不足感が強く、北海道(71.5%)、九州地方(71.5%)、中部地方(68.8%)も目立った。半面、東北地方は35.7%で低かった。
クロスマイルは「中国や九州地方は、物流網が発達している一方で、都市部への人口集中が進んでいる傾向にあり、地方部でのドライバー確保が困難になっていることが考えられる」との見方を示している。
北海道も広大な面積に対して人口密度が低く、拠点間の移動距離が長かったり、冬季の悪天候による輸送が困難だったりすることから、多くのドライバーを必要としている実態が現れているとみている。
事業者に対して過去5年間のドライバーの退職理由について質問すると、2割が退職理由を「把握できていない」と答えた。
対照的に、転職検討中のトラックドライバーに転職を考えている理由を質問したところ、回答の上位3つが「給与が低い(53.1%)」、「拘束時間が長い(27.2%)」、「肉体労働で体力的にきつい(23.1%)」となり、労働環境に対する不満が離職を促進していることがうかがえた。
さらに、転職希望時期を質問したところ、過半数の56.6%が1年以内の転職を希望した。「いい転職先があればすぐにでも転職したい」も12.6%に達し、事業者側への労働環境・待遇改善が強く求められていることが浮き彫りとなった。
トラックドライバーの育休取得状況において、該当しない(育休の必要がなかった)と答えた方を除いた男女240人に質問したところ、「希望通りに取得できた」のは約1割にとどまった。
男女別では、共通して「会社に育休制度がない、または制度があっても実質的に利用できない」の回答が4割を超え、制度の有無だけでなく、職場環境や人員体制などが整わず、制度があっても利用を躊躇してしまう状況があることを示唆している。
女性の育休取得状況を見ると、希望通りに取得できたのはわずか1割で、2割が取得しづらいと感じている。回答数が少ないながらも、半数以上が何らかの課題を感じており、育児と仕事の両立支援体制の遅れを示している可能性がある。
一方、男性は希望通りの取得はわずか9.1%と女性以上に低く、「取得しづらい」が約4割を占めた。クロスマイルは育児休業制度の整備が進む一方で、制度の利用を躊躇させる職場慣行や従業員の意識が、育休取得における大きな障壁となっているとみており、男女ともに、物流業界では育休を取得しやすい環境整備が急務だと強調した。
こうした状況を踏まえ、トラックドライバーに男女問わず働きやすい環境を作るための効果的な施策を尋ねたところ、半数以上が「柔軟な働き方の整備(51.2%)」を選択した。
次いで約半数が「トイレ・更衣室・休憩室などの整備(47.1%)」、3割強が「子育て・育児との両立支援(34.4%)」を挙げた。一方、企業の定着策の上位は「柔軟な働き方(34.1%)」「休憩室等の設備整備(12.4%)」「公平な評価(10.8%)」となった。
ドライバーは「子育て・育児との両立支援」が34.4%と高い割合で3位にランクインしているのに対し、企業の取り組みとしては8.1%で11位にとどまった。企業が考える定着策と、ドライバーが実際に働き続けたいと強く感じる要素、特に仕事と家庭の両立支援において、大きなギャップが存在する可能性がありそうだ。
事業者にワークライフバランス向上に向けた取り組みを聞くと「有給休暇取得の推奨(36.8%)」「健康診断・健康相談の実施(28.1%)」「待遇改善(23.2%)」などが並んだ。
積極的に改善を図る企業がある一方で、「特に導入している制度や取り組みはない」と答える事業者も2割程度あり、事業者間で環境整備に対する意識に差があることが示された。
事業者に定着率に対する実態を質問したところ、6割が「課題を感じている」と回答した。
フリー回答で定着率に課題を感じている理由を尋ねた結果、若年層を中心とした定着率の低さへの懸念が目立った。クロスマイルは「背景には転職や独立を前提とする若手層の意識に加え、物流業界における給与水準や拘束時間など、不満の多い労働環境が早期離職を加速させる実態がある」と語っている。
地域別では、定着率への課題が最も強いのが中部地方(75.0%)だった。
最も低い東北地方(42.8%)と比較すると32.2ポイントも差が開いていた。地域によって定着率に対する認識や実態に大きな違いがある可能性がある。
事業者にドライバー未経験者が安心して働くために導入している制度や取り組みを質問したところ、「資格取得支援制度(大型免許、フォークリフトなど)の導入(34.1%)」「社会保険完備(33.5%)」「有給休暇の取得促進(28.6%)」が上位にランクインした。
3割近くが「特に取り組みは行っていない」と回答しているものの、充実した福利厚生の整備や手厚い研修に力を入れている企業が多いことが分かる。クロスマイルは多角的な取り組みを通じて、未経験者が安心して長く活躍できる環境を整備していくことが、若年層の定着率向上、ひいては業界全体の活性化につながるとの考えを明らかにした。
トラックドライバーに仕事選びで重要視することを質問したところ、上位3つが「高い給与(67.1%)」「安定した会社(44.7%)」「良好な人間関係(40.8%)」となり、収入の高さと企業としての安定性を重視する傾向にあった。
年代別では、全年代で「高い給与」が最重要視され、トラックドライバーにとって収入が仕事選びの根幹であることがあらためて明確になった。また、「充実した福利厚生」も多くの年代で上位にランクインし、経済的安定と長期就労へのニーズがあることが分かった。
さらに、年代が上がるにつれて、ワークライフバランスやキャリアアップよりも、良好な人間関係、安定性、労働環境といった、より長く安心して働ける要素への重視度が高まる傾向が見られた。
一方で、女性では仕事選びの基準が「特にない」と回答する割合が男性よりもやや高く、依然として物流業界において女性がマイノリティであり、トラックドライバーという仕事に進出する上での選択肢が限られていることや、必要な情報が十分に提供されていない可能性があることが背景にあるとみている。
事業者に対し、女性ドライバーの雇用実態を質問したところ、2割超が「積極的に採用を進めている」と答えた。
背景として「ドライバー不足の深刻化と女性の活躍への期待」と答えた人が4割に上った。
一方、採用における課題も明確になり、「女性ドライバーの応募者数の少なさ(75.6%)」、「求めるスキル・経験を持つ女性の少なさ(22.2%)」など、絶対的な人材不足と、要件を満たす人材の確保難が浮かんだ。
その中で、トラックドライバーに女性ドライバーの採用で会社に期待することを聞くと、上位2つは「女性専用の休憩室・仮眠室・更衣室の設置(42.2%)」「男女別のトイレの整備(41.5%)」となった。
他にも、荷台や運転席の改良といった物理的な負担軽減、勤務時間や休日制度の見直しなどの働き方の整備への要望や、ハラスメント対策の徹底、孤立しがちな女性ドライバー同士が情報交換や悩みを共有できる交流会の実施など、心理的な安心感や連帯感を醸成するための取り組みも期待されている。
(藤原秀行)※いずれもX Mile提供