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【独自取材】5月に「ドライバー1人当たり最大拘束時間293時間順守」を達成

【独自取材】5月に「ドライバー1人当たり最大拘束時間293時間順守」を達成

日東物流・菅原代表取締役インタビュー(前編)

千葉県四街道市に本拠を置く日東物流は、「健康経営推進」と「コンプライアンス順守」を経営の2本柱に据えている。同県の物流会社では初めて、経済産業省と日本健康会議が毎年選定している「健康経営優良法人」の中で、特に取り組みが優れている中小企業の上位500社に相当する“ブライト500”に選ばれた。今年4月には働き方改革の一環として、トラックドライバー全員の最大拘束時間293時間の順守徹底を表明、さっそく5月に達成した。

いずれも物流業界でも例を見ないほどの力の入れようだ。菅原拓也代表取締役に、取り組みの背景と成果についてインタビューした。その内容を2回に分けて報告する。

国際物流総合展2021 第2回 INNOVATION EXPO


菅原代表取締役(2021年撮影)

やれるところから地道に改善、5年で目標に到達

――今年4月に働き方改革の一環として、改善基準告示で定められている通り、全ドライバーの「1カ月当たり最大拘束時間293時間」を順守する方針を表明しました。物流業界でも非常に珍しい取り組みだと思いますが、実際の達成状況と反響はいかがですか。
「おかげさまで293時間については5月以降、達成できています。そうした方針をプレスリリースしたことにはものすごく驚かれますね。しかし、われわれは293時間がゴールとは思っていません。次の段階として、2024年4月から適用される『月80時間の時間外労働の上限規制』を前倒しで実現・徹底するために、さらに取り組みを強化し、最大拘束時間を270時間以下にしていきます。拘束時間短縮に対し、業界の他の企業の中には驚きと同時に、本当にできるのか?とか、見た目だけできていて本当はできていないのではないか?といった懐疑的な見方ももちろんあると思いますが、われわれは270時間以下についても本当に実現できると信じています」

――健康経営の一環でもありますか。
「もともとはコンプライアンス順守と健康経営の両軸で、日東物流としてのカラーを出して行きたいという思いがあります。293時間はコンプライアンスを強化していくという意味合いが強いです。ただ、改善基準告示に則って293時間順守を達成しても、あくまで最低限のレベルであり、まだまだ現状で満足していてはいけない。少なくとも労働時間の長さは運送業界以外の業界の方々と同じくらいまで短縮する必要があるでしょう。(健康不安や事故などの)さまざまなリスクをヘッジするために、なるべく拘束時間は短くしたいと思っています」

――293時間順守徹底はどれくらいの期間で達成できましたか。
「5年くらいですね。一朝一夕にできたことではなく、個々のドライバーとミーティングを重ねるなどして少しずつ短縮し、ようやく到達しました」

――相当苦労されたのでは?
「振り替えればあっという間でしたが、実際に取り組んでいる時は、業務の時間を短くすれば当然給料が減り、1日当たりで処理できる業務が減りますから今までの人員では回せなくなります。必然的に業務量を減らすか人を増やすか、どちらかに舵を切らないといけない。われわれが選んだのは前者の方でした。業務量を減らして1人当たりの仕事を抑制することにより、拘束時間を短くしようと考えたのです」

「そうなると、なるべく従前と同じくらいの水準の給与を出そうと思ったら、今度は原資が必要になってきますから、お客様と交渉してご理解いただき、料金を見直していきました。いろんなことを何個か同時に走らせたようなイメージで、それがたまたま料金改定につながり、ある程度原資を確保して従業員に還元し、その分拘束時間を短くすることができました。少しずつ、少しずつやれるところから改善していった結果、5年かかったというような感じですね」

国際物流総合展2021 第2回 INNOVATION EXPO

――当初から5年くらい必要と予想していましたか。
「正直に申し上げると、5年では全然できないと思っていましたし、293時間を完全に順守できるところまで行き着けるかどうかもはっきりとは分からなかったんです。やり始めてみないことには前に進めないので、とりあえずやってみようという感じでした」

――5年で目標に到達できた最大の要因は何だと感じていますか。
「何とかして利益を残す、という覚悟の強さではないでしょうか。一番大変だったのはお客様の交渉ですね。本当に不採算の仕事はなくしてしまい、売り上げを1割くらい落とした中でも従業員の皆さんに還元しつつ利益率も確保していくことを考えた場合、やはりお金の部分でどう段取りを付けていくかがすごく難しかった。しかし、労働時間が短くなり給与水準はほとんど変えなかったのですが、料金を改正したことで利益率は前より良くなったほどでした。それはちょっと想定外でした。当社は金融機関から借り入れをしていないので、売り上げを落としてもご迷惑をお掛けする対象が少なかったということもプラスでした」

「従来は当社から提示する運賃に明確な根拠がなく、4トンならこれくらいだろうといった相場観だったり、前回と同じくらい、という話になったりしがちでした。私自身、お客様と料金の話をすることが増え始めたため、従来のやり方を大きく改め、きっちり原価を計算した上で根拠を持って交渉に当たるようにしました。採算が合わなければ撤退も視野に入れる、しかし何でもかんでもやめてしまえば売り上げが立たなくなる、という状況の中、バランスを見ながらそれぞれの案件にプライオリティーを付けて、利益が残るような仕事を維持し、ちゃんと新規でも案件を獲得することに注力していったんです。なあなあだった交渉をきっちり根拠を示す形に変え、運賃水準は上がりました。お客様としても納得いただけるような内容だったと思います」


日東物流本社のトラック(同社提供)

長距離、長時間の仕事から手を引く

――長距離で拘束が長くならざるを得ない仕事も見直したのでしょうか。
「そうですね。昔は1回当たりの運行で13時間はざら、長くなれば17時間という場合もありました。しかし、293時間から逆算すれば、どんなに長くても11時間くらいの拘束時間で仕事を完了しなければなりません。1コース設定しようとすると、それより長い時間を要する内容はどう考えても無理で、運行できません」

「率直に申し上げると、長距離、長時間の案件の中にも本当はのどから手が出るほどほしい、利益を得られる仕事があったんです。しかし、そうしたことに固執してしまうといつまでたっても時間を短縮できません。自分たちの中でコンプライアンス優先という判断基準が明確にできてきたので、法令順守を最優先し、その中でちゃんと利益が出る仕事を取ろうという姿勢が当社の中でみんな当然のこととしてできるようになりました。昔の業務判断の水準とは全然違いますね」

国際物流総合展2021 第2回 INNOVATION EXPO

「昔は長野に日帰りで往復する便があり、通常運行では13時間くらいでも、雪があれば戻ってくるのに16、17時間が掛かってしまいます。そうした案件は徹底して見直しました」

――必然的にサービス提供のエリアも絞られますね。
「そうですね、当社が地盤にしている関東でも群馬、栃木あたりには拘束時間の縛りで行けませんし、東京であっても八王子あたりまでになりますね」

――それでも経営は回せる体制になっている?
「実際問題としてはそうですね」

――270時間を目指す上では、さらに取り組みが求められそうですね。
「270時間の目標に関しては、8割、9割くらいまで到達するにはそんなに時間はかからないと思います。ただ、残りの1割に関してはどれくらい時間がかかるかな、というイメージは持っています。270時間は24年までには必ずやらないといけないというのが大前提であり、先送りすればするほど自分たちの仕事がどんどん厳しくなってくるのは明白ですから、なるべくこのまま、270時間の到達まで行けるのであれば行ってしまいたいですね。」

「270時間という目標に関しては、配車担当を含め、従業員全体でどれだけモチベーションを保てるか、が大事だと思っています。そんなの無理だよ、できないよと言いながら取り組むのと、そこまでどうしても達成しないといけないからやろうぜ、やろうぜと声を掛け合いながら進めていくのとでは全然違いますから。現状の当社内は、どちらかというと後者の感じになっています。こうすれば拘束時間をさらに短くできるんじゃないか、こうすれば業務の時間を削れるんじゃないかとみんなが真剣に考えてくれています。そこは社内の皆さんに任せて、私は仕事時間が短くなっても経営がうまく回るようにすることに責任を持って取り組んでいきます」

――293時間を達成したことで、従業員のQOL(Quality of Life、生活の質)は改善しましたか。
「それはとても改善していると思います。昔とは違って人間らしい働き方ができていると感じますし、給料もちゃんともらえて、健康面に関しても健康診断を毎年受けることができるので非常にありがたいと言ってくれる従業員の方もいます。仕事にすごく前向きなスタンスの人が増えているという感覚はありますね。やらされるのではなく、仕事に向かい合い自分で率先して頑張る人の集団になってきていると自負しています」

(後編に続く)

(藤原秀行)

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