【シンポジウム開催報告・後編】「もはや時代は自然とフィジカルインターネットに進む」

【シンポジウム開催報告・後編】「もはや時代は自然とフィジカルインターネットに進む」

産官学からの参加者、共同化促進へ“協力と競争”の線引きなど提案

ヤマトホールディングス(HD)系シンクタンクのヤマトグループ総合研究所は2022年11月1日、東京都内で、世界を大きく変えたインターネットの形を物流の世界で再現し、業務効率化や省人化などを図る考え方「フィジカルインターネット」の実現を後押しするためのシンポジウム(後援・一般社団法人フィジカルインターネットセンター)を開催した。オンラインでも併せて、視聴できるようにした。

産官学の各領域からの登壇者は、既に内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」などでフィジカルインターネットの核を成す、共同輸送をはじめとする物流アセットのシェアリングや標準化の取り組みが動き始めている実態を指摘。もはや時代は自然とフィジカルインターネットの方向に進んでいくとの意見も出るなど、潮流を止めずに加速させていくことが必要とのスタンスで一致した。その上で、産官学がそれぞれの立場で活動を継続・発展させていくことを確認した。

シンポジウムに登壇した有識者らの発言内容の概要を全3回に分けて掲載する。なお、同総研はシンポジウム終了後の22年11月30日付で解散し、フィジカルインターネットセンターが研究などの活動を継続している。


シンポジウムの会場(ヤマト総研提供)

前編と中編の記事振り返りはコチラから

海外の有識者、日本のロードマップを高く評価

シンポジウムの中盤では、海外でフィジカルインターネットの実現を主導する存在として、米ジョージア工科大学のブノア・モントルイユ教授と、フランスのパリ国立高等鉱山大学のエリック・バロー教授がビデオメッセージを寄せた。

モントルイユ氏は「米国のフィジカルインターネットは欧州や日本に比べて政府が関与せず、むしろ産業界が進んでいる」と解説。貨物輸送のシェアリングによるCO2排出削減などのプロジェクトが進んでいることに言及し、「大きなプログラムであり縦割りでは行えない。世界中で協業していくことが必要」と強調した。

バロー氏もドイツで標準化した輸送容器「スマートボックス」を取り入れて輸送費・荷役費が30%削減できたケースがあることや、スイスやフランスで都市間輸送をシェアする取り組みが進んでいることを報告した。

さらに、2氏はそれぞれ、日本で官民の検討会議が2022年3月に公表したフィジカルインターネット実現のロードマップ(工程表)を高く評価。モントルイユ氏は「目標が非常に明確にされている。最も効率的で、いかなる混乱があっても止まらない堅牢なサプライチェーンを実現できる」と語った。バロー氏も「包括的で一貫性のあるロードマップを作られたのをうれしく思う」とコメントした。

その後、「フィジカルインターネットの実現に向けて」とのタイトルで、登壇者らによるパネルディスカッションを実施。モデレーターはフィジカルインターネットセンター代表理事を兼務している荒木勉上智大学名誉教授が務めた。

登壇者らは、国土交通や経済産業、農林水産の各省と経済団体などが、フィジカルインターネットのロードマップに併せてまとめた各業界別の具体的なアクションプラン(行動計画)の進捗状況などを説明した。


パネルディスカッションの様子(ヤマト総研提供)


荒木氏

「ボトムアップよりトップダウンの合意形成を」

日清食品の深井雅裕取締役は日々の物流オペレーションで得た体験を踏まえ、「サプライチェーン全体で生産から原材料調達、販売、物流まで全体の中でどうするのが、一番効率が良いかを常に考えているし、今後もやっていきたい。共有化できる方向は考えたい」と強調。

セイノーホールディングス傘下のセイノー情報サービスの早川典雄取締役は「物流の協力だけではなく、製造に関しても水平連携をも考えていかないと全体的な解決にならないと感じる」と語り、製造の面でも設備のシェアリングなどを検討すべきとの持論を展開した。

JR貨物の石田忠正相談役(元会長)は「貨物鉄道は温室効果ガス排出をトラックの20分の1に抑えられる。ぜひそうしたことを(ユーザーに)エンジョイしていただきたい。コーディネートも可能だ」と語り、フィジカルインターネットにおける鉄道貨物の役割を十分に発揮していくことを目指す方針を表明。災害が多発し、鉄路が寸断されるケールが相次いでいることを踏まえ「鉄道についても官民挙げて予防保全をすることで基礎インフラが強くなる。ぜひご配慮いただきたい」と財政面などの支援を訴えた。

農林水産省大臣官房新事業・食品産業部の武田裕紀食品流通課長は「令和の時代のモーダルミックスを考えようということで、どこで(青果物などを)集約化するか、受けの部分でどのようにばらしていくかを考えている。いかに滞りなく届けるかに引き続き取り組みたい」と述べ、輸送容器や外装の標準化などを追求していく姿勢をアピールした。

国土交通省の平澤崇裕物流政策課長は、物流業務標準化の中で注目度が高まっているパレットに関し「一貫パレチゼーションを達成するのが真の目的であり、そこを意識してしっかり議論することが重要。将来を見据えて規格を統一していくことがいいのではないかと考えている」と指摘。産業界が連携し、使用するパレットサイズの共通化などを推し進めていくべきとの考えをにじませた。さらに「物流をわが事として考えていただけるよう、われわれとして情報発信していかないといけない。どういうメリットがあるかもしっかり示していきたい」と決意を語った。


平澤課長(ヤマト総研提供)

内閣府SIPスマート物流サービス研究推進法人でプロジェクトマネージャーを務める鍵野聡氏は、共同物流などのプロジェクトに携わっている経験から「物流を集約する、今ある物流を新しいネットワークに移し替えるのは業者を変えることなどを伴うため、関係する方々が決してもろ手を挙げて喜べる話ではない。また、共同物流は多くの参加者があって初めてスケールメリットが発揮できるが、最初はどうしてもスモールスタートになるため、コストメリットを感じにくい」と解説。「ボトムアップよりトップダウンの合意形成が必要」と語り、企業経営者らが率先してメリットを関係者に語り、モチベーションを高めつつ率先して共同化を進めていくことの必要性を提唱した。

同じくプロジェクトマネージャーの金度亨氏は「標準化の観点から、今の輸送資材やシステムを改修しないといけない。将来どれくらいのゲインシェアリング(成果の共有)ができるかモデルを示しておかないと導入は進まないのではないか」と分析した。

野村総合研究所の藤野直明主席研究員は「日本は欧州型のフィジカルインターネットでいくべきとの意見には大賛成、こういう方向で議論が進んでいくのではないか」と展望。ごく一部の巨大企業が主導する米国や政府が強力に率いている中国と異なり、民間企業同士の協調によるデータ主権を尊重する欧州のやり方を参考にして実現を図っていくべきとの姿勢をPRした。


藤野氏(ヤマト総研提供)

「実装レベルで欧米などに先行できるチャンスあり」

東京大学先端科学技術研究センターの西成活裕教授は「物流原単位を作ることが大事。物流の作業にいくらかかるか、全部原単位を積み上げていったものが価格なので、ここを明らかにしないと進まない。さらに、協力と競争の線引きと利益配分が決まらないとなかなかうまく行かない」と主張。各物流業務の価格可視化などが肝要と強調した。

明治大学専門職大学院の橋本雅隆教授は「コストアップが続いている状況を踏まえると、フィジカルインターネットのロードマップは少し前がかりでやっていかないといけないのではないか」と語り、実現のための各施策を加速させていくことを呼び掛けた。

経済産業省の中野剛志消費・流通政策課長は「フィジカルインターネットのリレー輸送は、その言葉を知らなくても検討を始めている会社が出てきている。物流のひっ迫で放っておいてもフィジカルインターネットの方向に進むのではないか。ただ、何もやらないと(事業者が)様々な標準をいっぱい作ってしまうと困る。デジタル化も同じで、中小の事業者でもかなり進んだことをやっている」と指摘。フィジカルインターネットの進展に強い期待をのぞかせた。


中野課長(ヤマト総研提供)

最後に、ヤマト総研の木川眞理事長(シンポジウム開催当時)が閉会のあいさつに立ち、フィジカルインターネットの関心度が日本で急速に高まっていることについて「総論賛成だけでなく、各論でもいろんなところで議論が一気に進む素地があったのではないか。フィジカルインターネットについて日本はステージが変化したのだろうと感じている」と語った。

その上で「日本がフィジカルインターネットの実装レベルで(欧米などに)先行できるチャンスがあるのではないか」と前向きな見方を示した。また、「シンポジウムも一区切りにしたいと思う。ムーブメントを継続していく必要がある」と語り、今後はフィジカルインターネットセンターに活動の軸足を移していくことを宣言、参加者に関心を持ち続けるよう訴えた。


木川氏(オンライン中継画面をキャプチャー)


パネルディスカッションの様子(ヤマト総研提供)

(藤原秀行)※タイトル横の写真もヤマト総研提供

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