【過去記事】ダイワロジテック、倉庫稼働データ公開しプログラミングコンテスト開催
ダイワロジテックなどがプログラミングコンテストをPR
IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)に関する先端の研究成果を紹介する「2018 TRON Symposium―TRONSHOW-(トロンシンポジウム トロンショー)」(主催・トロンフォーラム)が12月12~14日、東京都内で開かれた。
この中で、大和ハウス工業傘下のダイワロジテックと、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所が共同で開催予定の、物流ロボットを最適に動かすためのプログラミングを競うコンテストについて関係者が狙いを説明。人手不足が深刻化する物流業界の現場を救うため、物流ロボットが早期に実用化される弾みにしたいとの思いを語り、協力を呼び掛けた。
コンテストでは、大和ハウスの物流施設内の配置や商品・在庫情報、入出荷の実績などに関するデータを提供。庫内に複数のピッキングロボットや運搬ロボットが動いている状況を想定したシミュレーターも公開し、物流ロボットを最適に制御するアルゴリズムの開発につなげるのが狙いだ。過去2回実施したコンテストとは形態を一部変え、物流業界以外の関係者にも関心を持ってもらえるようにした。
「労働人口が1日2125人減少」と危機感
12月14日にシンポジウム会場で行われた特別セッションで、コンテストの関係者が参加した。プログラミングコンテストの審査員長を務める坂村健氏(INIAD=東洋大情報連携学部=学部長、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所長)がコーディネーターとして進行を担当した。
冒頭、坂村氏がイノベーションを生み出す世界的潮流として、コンテストを開催し、アイデアを競い合っていることを紹介。「(生み出すべき)新しいことが何か分からない場合に、こうしたコンテストの手法が有効ということがいろいろな研究で明らかになっている」と語り、物流業界の生産性向上にも生かせるとの認識を示した。
コンテストの概要を説明する坂村氏
続いて、大和ハウスで物流施設開発に携わる竹林桂太朗東京本店建築事業部長が登壇。祖業として倉庫の開発を手掛けてきた歴史をプレゼンテーションし、「物流施設は利回り商品としても、最新鋭の施設としてもたくさん出来てきている。今後はハードだけではなくロボット、ソフト、施設の中の話を考えていかないといけない」と述べ、デベロッパーとして入居企業の業務効率化まで踏み込んでいく必要性を示した。
自社の物流施設開発の現状を語る竹林氏
さらに、ダイワロジテックの秋葉淳一社長が「物流の世界は全部ロボットにできますか、AIでできますかと言われると、そうではないのが現実。10年後もそこは恐らく変わらない。ただ、どこまでAIやロボットでできるかについてはどんどん変わっていく」と指摘。
同時に、物流現場の人手不足の実態に触れ、日本の労働人口が1日当たり2125人減少していると衝撃の数字を紹介し、「現在の世の中で活躍している人は人口減少の中での事業、経営を誰も経験していない」と持論を展開。機械が現場作業を担うとともに、人間が意思決定や経営戦略の立案などを手掛けるという役割分担を明確にしていくことが重要との見方を示すとともに、物流施設内でロボットなどを共有することで荷主企業や物流企業の投資リスクを分散する“競争から共創”を推進すべきだとの姿勢をあらためてアピールした。
シェアリングの利点を説く秋葉氏
最後に、大和ハウスと業務資本提携しているHacobuの佐々木太郎社長が、BtoBの配送現場でいまだに手書きのファクスが広く使われていることなどに触れた上で、トラックドライバー不足が10年後はさらに深刻となることが見込まれ、単純計算で現場業務の生産性を33%向上させなければならないと推測。「デジタルデータが存在しないとAIも使えないので最適化が進められない」と自社が進めている運送業務効率化支援システムの真意をPRした。
配送のデジタル化を訴える佐々木氏
「若い人に興味持ってほしい」と思いを吐露
その後のパネルディスカッションでは、4氏が物流業界の課題と進むべき方向について議論した。秋葉氏は「物流不動産だけやっている企業グループではないので、ロジスティクス全体をどうやったら効率化できるか、全体感として目指している」とスタンスを解説。「完全に人がいなくなることはないが、発想を一気に、人が少ない前提のセンターをどう造っていくかというところまでジャンプさせている」と話した。
竹林氏は物流施設間の差別化競争が激しくなっている現状に言及。その一例として千葉県市川市では旧来、時給が平均800円台だったのが、物流施設開発が進む今は1000円になっていることなどを列挙し、「倉庫でもIT導入はまだ進んでいない。少しずつ変わろうとしているところだ」との見方を示した。
また、同社グループが管理している物流施設は500万平方メートルに達していることから「そのインフラを使って動かせるシステムを開発するのは社会的に、非常にインパクトがあると思っているので非常に期待している」とコンテストの成果に希望を募らせた。
佐々木氏は「各プレーヤーがデジタルでつながる世界を作らない限り、人材不足解消のための打ち手(を講じるところ)までは行かない」と明言。サービス開発に関しては、さまざまな関係者に情報を公開し、英知を集めるオープン志向で進めることが基本的に重要との理想を語った。
坂村氏は「物流が衰退産業というか、世の中で必要とされているのに人が来ない、となったら日本はどうなるのか。いろんな人、特に若い人にコンテストへ興味を持ってもらいたい」と締めくくった。
パネルディスカッションに臨む4氏
トロンシンポジウムは、家電製品や自動車関連機器などに広く用いられている国産の基本ソフト(OS)「TRON(トロン)」によるIoT普及促進を目指し、各種メーカーや研究機関、大学などが先進技術やソリューションを出展した。
(藤原秀行)