大分のNBSロジソルとイーメディカルジャパン、共同で物流業界初の試み推進
住宅建材などの輸送を担っている物流企業のNBSロジソル(大分県日田市)は今年10月、マーケティング支援を手掛ける刀(大阪市)の子会社で医療サービスを担うイーメディカルジャパン(東京都千代田区大手町)と組み、新たな福利厚生として、自社の全ドライバー約500人向けに高血圧のオンライン診療サービスを導入した。
ドライバーに貸与しているスマートフォンと血圧計を活用して毎日測定、その結果は専用アプリでデータを記録、管理する。NBSロジソルの管理者側とドライバーで情報を共有している。定期的に血圧をチェックすることで病気のリスクを早めにつかみ、健康問題を起因とする重大事故を回避することを目指す。
全ドライバーを対象にオンライン診療を活用した高血圧対策を展開するのは、物流業界では初めての取り組みだ。NBSロジソルの河野逸郎社長は「ドライバーの『健康年齢』(現在の健康状態を年齢で表す指標)を下げ、長く働いてもらえる環境の整備につなげたい」との思いを語っている。物流業界でもより普及していくことが期待される。
NBSロジソルの河野社長
NBSロジソルの車両(同社提供)
ドライバー自身による血圧測定のイメージ(NBSロジソル提供)
体調の「可視化」で自ら管理する契機に
NBSロジソルは1968年創立。現在は全国に40拠点を構え、800台以上のトラックなどを保有、2022年度の売上高は約153億円に上る。
以前から定期的な健康診断の実施や点呼時の血圧測定など、健康面の管理に注力していた。事故を回避してより輸送サービスの品質向上を図ることなどを目的に、さらに踏み込んで健康管理を拡充することにした。
さまざまなサービスを検討する中で、たどり着いたのが、イーメディカルジャパンが2022年から展開しているオンライン診療サービス「高血圧イーメディカル」だった。利用者にはオムロン製の血圧計を無料で貸し出し、専用のスマホアプリと連動して測定したデータを蓄積、日々の水準の変動などをチェックできるようサポートしている。アプリを介して高血圧の専門医にオンラインで診断してもらうことも可能だ。
血圧計とスマホアプリを連動
スマホアプリのイメージ(イーメディカルジャパン提供)
これまで企業の成長を後押しするため商品ブランド変革などを担ってきたマーケティングが事業の柱の刀グループとしては、初の医療関連サービスとなった。一見するとマーケティングとは全く無関係のように見えるが、自身が新事業立ち上げに携わったイーメディカルジャパンの塩谷さおり代表取締役兼CEO(最高経営責任者)は「われわれはマーケティングで多くの方々の行動変容を後押ししてきた。そうした経験を生かし、日本人の多くが長年悩まされている血圧の問題解決へ行動変容をサポートさせていただきたいと考えた」と語る。
もともとは個人向けをメーンに考えていたサービスだったが、ふたを開けてみると従業員の健康をきちんと管理したいという企業のニーズも多いことが判明した。スマホのアプリは血圧の推移などのデータを見やすくすることにこだわっている点なども評価され、既に物流業界を含めて複数の企業がこのサービスを採用しており、利用が着実に広がっている。今回、NBSロジソルのように約500人の規模で一括してサービスを提供するのは初めてのケースだ。
塩谷CEO
NBSロジソルの河野社長は2025年の春までに、全国の全営業所で導入を完了する計画を立てている。「健康状態に関する客観的なデータを運行管理者だけでなく、ドライバー自身が知ることができる意義は非常に大きい。健康状態を可視化することで、自身の体調を自分で管理するという理想的な姿の実現に近づけられるし、運行管理者とドライバーのコミュニケーション促進のきっかけにもなる」と期待する。
本格的な運用を始めた後は、各ドライバーの健康年齢の推移とともに、事故件数の低下や荷主からの輸送サービスへの評価なども指標化し、それぞれ改善させていくことを目指す。将来は健康年齢の推移を人事評価につなげることを視野に入れている。ドライバー以外の倉庫作業スタッフらに対象を広げていくことも念頭に置いている。
河野社長は「従業員が健康でいられるように投資するのは、投資対効果が非常に高い。新たな採用や定着率向上にも効果があるのではないか」との見方を示している。
塩谷CEOは「いつも血圧が低めなのに今日は高めになっているといったように、変化が見えるのが非常に大事。長期的に動向をつかめる。会社のルールに組み込んでもらうことで、個人ではなかなか越えられない健康管理継続のハードルをみんなで乗り越え、物流業界全体の意識を変えるきっかけになってほしい」と説明、今後もNBSロジソルと二人三脚で健康年齢引き下げを後押ししていく構えを見せている。
(藤原秀行)